こどもの頃から「忘れもの」が多かったのですが、悲しいかな、歳を取ると、それにさらに「もの忘れ」が加わる、ということに気が付きました(そのうちそれも忘れるかも知れませんが)。
さっきまで使っていたはずの老眼鏡がどうしても見あたらず、困り果て、頭を抱え、ふとオデコに手を当てたらそこにあった、……というのはまだまし。
老眼鏡を(目に)かけているのに、老眼鏡をしばらくの間、探してしまったというときには、いろいろな意味で愕然とさせられました。
はてさてそんなわけで、モノづくりは好きなのですが、このところはどちらかというと、モノを作っている時間よりもモノや道具を探している時間のほうが長いのではないか? というくらい探しものをしている時間が長く、どうしたものかとひとり悩んでいたら、先輩から素晴らしい助言いただきました。
臼井健二さんいわく、
「探しものの時間を少なくするコツは、モノや道具に住所を与えること!」
つまりは帰る場所をちゃんとにつくってあげること、なのだそうです。
なるほど、なるほど。
ということで、見せる収納、壁面収納というのを実践してみることにしました。
⇧これがそのための壁面。雨が吹きかけないように軒を深めにしています。
このあたりは、標高があって紫外線が強いので野ざらしの材木は、白っぽく、場合によってはシルバー系の光沢をもった感じに日焼けしてくれます。
その白系の色と、自家製の浸透性媒染型塗料の茶色系の色とのコントラストがなんとなくシックな感じがあって良さそうなので、収納壁もその線で行くことにしました。
⇧野路板やホームセンターなどからタダでいただいてきた木製パレットを物置小屋の屋根に並べて白州の紫外線にさらします。まださらして間もないパレット(奥から2枚目)との色の違いが分かるでしょうか?
ひと夏さらすと、かなりいい感じになるのですが、春から秋は農作業が忙しいので、モノづくり系の作業を主に行う(ことにしている)冬まで、そのままさらしておきました。
ところがそれにより、困ったことが起きてしまったのでした。
このあたりには、ホソミオツネントンボというイトトンボが住んでいるのですが、どうも波板と材木との微妙な隙間がお気に入りのようで、ホソミオツネンと思われるトンボたちがたくさん、このスキマを越冬場所として使っていたのでした。
ホソミオツネンは、カメムシやテントウムシなどと違い、越冬仲間が肌を寄せ合って寒さを凌ぐ集団越冬タイプではないので、それぞれが離れて点々と止まっているのですが、どうもこの「ガルバニウム波板の上の材木」という条件が気に入って集まってしまっているようなのです。一般的には雑木林のひこばえなどに擬態して冬を越すと言われているのですが、とはいえ雑木林で冬越し中のホソミオツネンを探すのはかなり大変。それを考えると冬越し中のホソミオツネンがこんなにたくさんここにいることは特筆に値することのようにも思えます。
⇧板をそーっと持ち上げると、こんな感じで板側に何頭ものがへばりついているのでした。ところでこのホソミオツネントンボというトンボ、越冬中のこの時期は木と同系色の地味な保護色となっているのですが、春になって成熟するとこんなに鮮やかな色になります。
お休み中のトンボには申し訳ないことをしたのだけれど、一頭ずつそーっと別の場所に移動してもらい、収納壁の製作をはじめたのでした。
⇧壁板は、縦張りにするか横張りにするかでちょっと迷ったのですが。間柱に直接壁板を固定できるというメリットを優先させて横張りに。継ぎ目は角をサンダーで落とし、固定するネジは隠さず、鍋ネジで露出させることにしました。
端が反った感じよりも真ん中が膨らんでいる方が好きなので、壁の表面側に木裏を使っています。
⇧紫外線にさらされた感じに統一感が出るように時間をかけて貼っていたら、材が収縮してしまいスキマが空いてしまったりもしました。向こう側が透けてしまうのはなんかちょっとカッコ悪いので……。
仕方がなしに、雨ざらしで表面が剥がれてしまった合板の表面材を木工用ボンドでスキマに帯状に貼り付けることにしました。桟木を打つ方法もあったのだけれども、もしかしたらこちらも壁面収納面に使うかもしれず、凸凹させたくない、という事情がありました。
⇧木工用ボンドだけでは硬化するまでに剥がれてくるので、タッカーを併用。
⇧その結果、裏側はこんな感じになりました。こちら側には将来的には鉢上げなどの農作業用のカウンターと棚ができる予定です。
施工と順番が前後しますが、収納壁の束石(つかいし)は、そこらの河原から拾ってきた御影石の小石で石積みしてみました。
⇧芋掘り用のハサミ型スコップでまずは凍結深度(約40cm)まで、直径約20cmほどの穴を掘ります。その後、その真ん中に柱の芯材となる単管パイプを叩き込み、生コンが土ににじみ込んでしまわないようにビニールで遮断し、打ったコンクリート基礎の地上部を小石で石積みするとこんな感じの束石ができます。
裏から見るとこんな感じ。
⇧柱の内部が単管パイプなのが分かるでしょうか?
単管パイプは将来は4面を木で囲われてしまうので芯が単管であることは分からなくなる予定です。
一方で、壁にぶら下げる道具たちも、少し手入れをし、化粧直ししてあげることにしました。
⇧折れてしまった爪を部品取り用にとってある壊れた熊手から移植。
そして浸透性媒染型塗料を塗布。
⇧スコップやフォーク、それに半月クワなど、木製の部分のあるものは、タンニンの鉄媒染色である焦げ茶系に統一して塗装することにしました。
どこに何を吊るすか、道具を集めてレイアウトを決めます。
で、こんな感じになりました!
⇧使いやすさ優先で、使用頻度の高いものをなるべく手前に持ってくることにしました。
フックは、なるべく壁と同色にすることで道具を目立たせることを基調に、主には木材で作り、一部ボルトなどを使ってフックを作りました。
使用頻度の高い「土削り」は、家族3人用をそれぞれに壁にセット。「そこに自分のがなかったからと他人のを借りてはいけない」という虫草農園の憲法第九条で厳格に管理されることになりました。
⇧土かんなは、金属の柄の部分を木のスキマに挿した後、ストンと落とすと固定されます。
剪定ばさみはこんな感じ。
⇧柄の形に合わせて作ったので、これも板に添わせてから落とすだけで固定できます。
カマもひとり2本、自分の穴があり、そこに愛用カマを挿します。錆びているのも一目瞭然。知らんぷりして口笛など吹きながら、隣の人のと差し替えることも禁止されています。
こちらはハンマーを吊るすための台。
ハンマーはヘッドが重いので、壁側に少し起こして傾けてやると、落ちにくくなり、安全に固定できます。
⇧こんな感じ。農作業では案外、ハンマーをよく使います。働きの悪い農奴の頭をコツンと叩いたり(ウソです)。
穴のあるものは、シンプルにボルトをナット2個で固定。
⇧長めのボルトを使用し、板の手前と奥、それぞれにワッシャーとナットを入れ、板を2つのナットで締め込むことで固定します。この方法だと薄板にもかなりしっかり固定することができます。
⇧裏から見るとこんな感じ。板が割れないように大きめのワッシャーを使用するのがコツ。表側にもストッパーとなるナット&ワッシャーが仕込んであります。
スコップ(ショベル)はカップ型の受けを木で作りました。
カップ型の受けに、鍋ネジを3本打つと、ちょっとシュールな顔になります。
⇧そしてこのスコップ、実はかなりのお気に入りの道具でもあります。いつかまたそのあたりも紹介したいと思います。
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おかげで、このところ農作業に関しては、道具を探している時間がかなり少なくなったように感じます。
よく使う道具は、厳選して気に入ったものを選び、そしてそれらが気持ちよく収納されていると、そこから道具を手に取るだけでもなんとなくうれしくて、やる内容は以前と変わらないのに不思議なことに作業自体も、いままでよりも楽しく感じられてしまったりするのでした。
オススメです。見える収納。