のろまなので夏にやったことを、いま頃になって書いてます。トートバッグ風工具箱の作り方2からの続きです。今回は、木の箱の部分に塗った手軽に作れる自家製塗料のことを紹介させてもらおうと思います。
こんな感じで、木材をいい感じに着色できて防腐効果もある塗料を、身近な材料から案外手軽に自作できますよー、という話です。
実は宇宙農民さんやナカケンさんから「酸(お酢など)に金属(スチールウール)を溶かしたものを木に塗布する意外といい色になるですよねぇ」しかも防腐塗料としても効果があるらしい、という話を聞いていたのだけれど、なかなかそれを実践することができず、いつの間にか時間だけが流れてしまっていたのでした。
そんなある日、モバイキッチンの木のシンクの部分にスチールウールのタワシを置いておいたら、その部分が見事に黒くシミになってしまい、その話を思い出したのでした。しかもよく見ると、その部分にはカビが生えにくい感じ。
↑シミは、ただ色がついただけではなくて、化学反応で染まった感じがしました。スチールウールが雨(酸性雨)にあたり、そこを通った液が流れたところにシミができたようです。部分的に青魚のような微妙な光沢があって、しかもその部分に発生していたカビは少なくなっているように感じられました。
宇宙農民さんの地球基地を訪ね、そのときに教えていただいたのは、お酢にスチールウールを溶かしたものを作り、それを木に塗るという方法。DIYが盛んな欧米では、広く知られた方法とのことでした。
一方、いまセルフビルドで基地を建設中のナカケンさんの場合は、柿渋をドラム缶で作って保管しておいたら、普通の柿渋よりも黒っぽい感じのいい色の柿渋ができた! というものでした。
実際にやってみて感じたのは、塗料というよりイオン化させた金属(酸化鉄)が木のタンニンと反応しているという感じ。木材に含まれるタンニンを草木染め要領で、酸化鉄で媒染しているようにも思えるのでした。
そこでまずは、オーソドックスにお酢にスチールたわしを浸し、試してみることにしました。
↑お酢はどこでも売っているリーズナブルなお酢。モッタイナイなくて千鳥酢は使えませんでした。
↑スチールウールのタワシは、100円ショップから入手。15個入って100円でした。とりあえずそれらをテキトーに投入。
ひと晩置いて、木材に塗ったら、塗った当初はただの水のような感じだったのですが、1時間もすると色が出てきて、なかなかいい感じ。時間がたつと色が出てくるあたりは市販されている防腐塗料であるウッドロングエコと似た感じです。
↑やはり、タンニンの多い芯材の部分が濃く着色される傾向にあります。
そこで、それをもう少しアレンジしてみることにしました。
じゃーん! 美味しそうだけど食べられません。
お酢の量を減らし、その代わりに(食べ終わった)レモンやミカンの皮やタネを追加し、塗料を塗るときにピクルスの香りがするという幸せな塗料を夢想し、そこらに生えていたディルやタイムやオレガノを添加。見た目もきれいだし、開封したときの臭いもいい感じです。でも中身の主役はスチールたわし。間違ってお客さんに出してしまわないように要注意です(そんな人いないですね)。
さらにもうひとつ、防腐&防虫効果を狙ったバージョンも作ってみることにしました。
こちらはお酢とスチールたわし、それにお酢の重量の10%ほどのホウ酸を添加してみることにしました。
ホウ酸は腎臓を持つ動物、人間やその他の哺乳類にとっては毒性は低く致死量は食塩と同程度(半数致死量LD50は、体重1kgにつき5gで体重60kgの人の場合、約300gが半数致死量だそうです。ちなみに食塩は60kgの人の場合、270gでホウ酸よりも毒性が高いとのこと)。人に対しての毒性が低いことから目薬などにも使われているのですが、腎機能を持っていない昆虫の場合は、ホウ酸を排泄することができず、蓄積されてしまい毒性が強く現れることから防虫剤などに使われていたりします(ゴキブリ退治のホウ酸だんごが有名ですね)。
また、ホウ酸は揮発や分解によって滅失することがないので、雨で流されるなど物理的な移動が起こらない限りそこにとどまり続けるという特徴があり、雨に当たらない床下の木材などに塗布した場合、長時間にわたって効果が持続するのではという期待されるのだけれど、純子さんスミマセン、もうとっくに床下の工事は終わってしまいましたよね。
とりあえず、これら三種類を比べてみることにしました。
↑左から順に「お酢+スチールたわし」、「レモン&ディル入り」、「お酢+スチールたわし+ホウ酸」。塗った直後はどれもほとんど色はつきません。
↑ところが1〜3時間くらいすると、こんな風に着色されます。写真ではホウ酸を添加した右端が一番薄い感じですが、どちらかというと色の濃淡は、ホウ酸よりもスチールたわしとの接触率(酸化鉄イオンの量)に左右される感じで、スチールたわしの近くの液をハケで取ると色が濃くなる感じです。スチールたわしを割り箸でつかみそれを木に塗布するとかなり濃い色になります。
で、さっそく実験。シロアリを飼育し、その中に「いい匂いだけど中身はお酢&たわし塗料」や「木をかじると密かに体内にホウ酸が蓄積されてしまうというだまし討ち塗料」を塗った木片を置いて、シロアリたちの様子を観察してみることにしました。あ、この先にシロアリの写真があります。苦手な人は要注意です。
まずはシロアリの採集。
不意打ちで見つけてしまうと、思わずギョエーとしてしまうシロアリですが、いざ採集しようとするとなかなか見つからなかったりします。彼らはかなりの臆病者なのです。前日にたくさんいることを確認して、飼育用の水槽を用意し翌日行ってみるとモヌケの殻だったり。
シロアリはなぜこれほどまでに臆病なのか?というと、どうもオイシイらしいのです。シロアリは「アリ」と呼ばれているけれども実はアリやハチの仲間(膜翅目)ではなく網翅目(もうしもく)。網翅目はゴキブリ目とカマキリ目に分かれ、シロアリはその中のゴキブリ目に分類されます。アリは蟻酸という毒をもっていてマズイのですが、ゴキブリの仲間であるシロアリは蟻酸を持っていないのではないかと思われます。
で、シロアリの一番の天敵はアリ(黒アリ)。蟻酸を持たないシロアリはどうもかなりオイシイらしく、黒アリに見つかるとガシガシ食べられてしまいます。そのためもあってシロアリは移動にあたってまず蟻道と呼ばれる土で囲ったストローのような細いトンネルを作り、移動する際は姿を見られないようにそのトンネルの中を移動します。床下の黒アリを退治したら、シロアリが大発生した、という話をときどき聞くのですが、どうもそのあたりに原因があるのではないかと思われます。自然の生態系のバランスはとても大切なのです。
シロアリも黒アリも社会性をもった昆虫で、それぞれに役割分担があったりするのですが、黒アリはハチの仲間なので完全変態なので幼虫は成虫とはまったく形の異なるウジ虫です。一方、シロアリはゴキブリの仲間なので不完全変態。幼虫も成虫と似た形をしています。そのあたりが具体的にどう違うかというと、黒アリの働きアリたちは(女王になれなかった)メスの成虫で、働きアリとして育てられ成虫になるのですが、シロアリのコロニーにいる働きアリたちは、実は皆、シロアリの幼虫。
黒アリの女王アリはこどもの頃から女王アリとして育てられ、一度働きアリと成虫になってしまった働きアリが女王になることはありません。一方シロアリはこども時代は皆、働きアリとして下働きをするのですが、兵隊アリになる一部を除き、そのほとんどは時期が来ると羽化し、女王または王(あるいは副女王や副王)になることができます。しかもこのときには羽根が生えて、体色も黒くなり、結婚飛行を終えると羽根を落とし、自分のコロニーを作る、ということだったと思います(遠い昔に覚えたことなのでちょっと違っている部分があるかも)。
おっと、この調子で虫の話をしているといつまでもたって終わらないので話を戻すと……、シロアリの場合、物凄い数の女王&王が生まれるわけですが、コロニーを作って女王アリとして生殖&産卵に専念できるケースはとても稀な運のいい場合で、たいていは途中で死滅してしまうわけです。そんなわけで水槽を用意したけど、翌日にはいなくなってしまっていたコロニーは、朽木を動かしたことにより黒アリに見つかってしまい、すべて食べられてしまったか、あわててどこか逃げた可能性があります(逃げる場合は土の中か?)。
別のコロニーですが、でもどうにか見つかりました。
かわいいシロアリのこどもたちです。矢印のところにアゴの大きな兵隊アリがいるのが分かるでしょうか?
アップにしてみましょう。
↑これが兵隊シロアリ(兵蟻)。ヤマトシロアリの場合、兵隊アリは戦う能力があまりなくて、頭の大きさで蟻道をふさぎ、侵入してくる黒アリを体を呈して通せんぼし、時間を稼ぎ、女王などを逃がすのではないか?と言われています。また、エサがなくなったときの歩くお弁当などという見方も最近はされていたりするようなのですが、このあたりの話をしだすとまた脱線しそうなので、詳しく知りたい人はこちらのページをどうぞご覧ください。シロアリに対する愛がそこかしこからにじみ出ている素晴らしいサイトです。
そんなわけで今回採集できたのは、働きアリ(シロアリのこどもたち)と、兵隊アリ数頭で、女王や王は見当たらなかったのですが、黒アリと違ってシロアリは女王が死んでも違う個体で補うことができるのでうまくすれば、これらの個体群が増えていく可能性もあります。
飼育容器はこんな感じ。
土の上に、右からA「無処理」、B「ディル入りお酢+スチールウール」、C「お酢+スチールウール+ホウ酸」の木片(スギの野地板:連続した板を3つに分割」を置き、様子を見ることにしてみました。
で、だいぶ落ち着いてきた数日後、板を裏返してみると……。
右端の無処理の杉板の下にはたくさんのシロアリがいたのですが、彼ら彼女ら、逃げ足が速く、みっつ裏返して、カメラを構えるころには多方は土の中に潜ってしまいます。かろうじて残っていたノロマな子たちが右端の木片下にいるのがわかるでしょうか? かなりの臆病で、撮影を一回失敗するとその日はもうでてきてくれなかったりするのでした。
よく観察すると、BやCの板片の裏にもシロアリがいた形跡(木をかじった?)があるのですが、裏返した際にはBやCには誰もいない(いても2〜3頭)、ということがほとんどでした。
シロアリはセルロース(枯死した植物の木繊維)を分解できる貴重な生物と言われているのですが、日本に住むヤマトシロアリやイエシロアリは、実際にはシロアリ自身がセルロースを分解できるのではなくて、体内に共生している微生物が分解してくれているのではないか?との説もあります。
シロアリは社会性を持つだけでなく、菌類との共生もしていて、外国には巣穴の中で特定のキノコを栽培するシロアリもいたりするのですが、今回の木片をよく見ると土に触れていて湿度があり菌類が繁殖した部分のみをヤマトシロアリは食害しているようにも見えて、体内の菌とだけでなく、体外の菌とも共生しているのではとも思えてきます。材が乾いている場合、土から水分を運ぶなどとも言われています。もしそうだとすると、殺虫効果を添加する以外に防腐剤を塗布し、木材を分解する菌が育たない環境を作る、ということもシロアリ被害を拡大させないための方策、のようにも思われます。
などと悠長に観察を続けていたある日、水槽の角に見つけたくないものを見つけてしまったのでした。蟻道です。
シロアリが姿を隠して移動するためのトンネル=蟻道が壁をつたい外に続いていたのでした。居心地が悪かったのか、シロアリたち蟻道を作って逃げてしまったのです。まずいよなぁ、この小屋の周囲には、大切な廃材たちがたくさんストックされているというのに。お願いだから、使えなくなるほどには食べないでね!
ところで、この金属イオン媒染型の浸透性塗料?はどんな使いみちがあるか、いくつか試してみました。
これはカウンター用にストックしておいた廃材に塗布したところ。
まずは汚れてしまっている表面をオービタルサンダーで大雑把に磨きます。汚れ落としを兼ねていたので、かなり粗い120番の空研ぎペーパーを付けて磨きました。また腐ってしまっていた角部も丸ノコでちょこっと落とし、ヒビの先端にダボを打つなどして下地を少し整えます。
そこにお酢にスチールウールを漬け込んだ浸透性塗料を塗布(食べものを載せたりもしたいので、ホウ酸は入れていませんでした)。また、濃い目に着色したかったのでスチールウールを直接スポンジバケのようにして塗布。
乾いたらその後、サラダオイル(いちおうバージンオイルだけれど賞味期限切れ)を塗り込みます。その後、しっかり乾拭き。するとしっとりした艶が出ます。
で、完成したらこんな感じになりました。
臭いもなく、べたつく感じもなく、少なくともいまのところ良好。カビが生えたりしないかちょっと心配だったのですが、その心配も無用でなかなかいい感じに仕上がりました。
そしてこちらは古材を使った棚。
樹種によって含有しているタンニンの量が異なるのか、同じ塗料を使っても色がだいぶ違って着色されます。
自給にこだわる人は、柿酢を使えば市販品によらない完全なる自家製塗料も可能だし、柿はタンニンを多く含むので色みも違ってきそうです。また、酸化鉄以外でも、ミョウバンやアルミを溶かした酢を使うアルミ媒染、あるいは銅や木酢液+スチールウールなどを使って試してみるのも面白そう。ただし使う材料によっては、鉱物由来、植物由来に関係なく危険なものや毒性の高いものなどが含まれていたり生成されてしまう場合もあるので(特に木酢液は要注意)、安全性にもちょっと気を配りながら塗料の自作、楽しんでいただければうれしいです。
スチールウールの量や柿渋を加えることで、色味を変えることも可能。こんな感じの廃材ドアをつくったりして楽しんでいます。
その後、紫外線や風雨暴露のテストなども行っています。上からサラダ油を塗ると、色落ちも少なくいい感じのように思います。