炭素の含有量が多い鉄は、赤くなるまで熱し叩いたあと急激に冷却すると硬くなります。一般にこの種の鉄のことを鋼鉄と呼んでいます。クルマのレストアをしたり、刃物を作ったり、鉄で遊ぶことが好きな人にとっては、当たり前のことですが、こうして浸炭し、焼入れして鍛えてやった鋼鉄は硬くなるけど、その一方でもろくもなります。こうした現象のことを脆性劣化(ぜいせいれっか)、あるいは脆化(ぜいか)と呼びます。こうしたトラブルを防ぐために包丁などは芯材である鋼鉄を軟鉄で挟み込んでいたりするわけです。
そんなわけで鋼鉄でできた原子炉の圧力容器は、加熱したり冷めたりを繰り返すことで脆化を起こしています。さらに原子炉の場合は、中性子が掃射されることによる中性子照射による脆性劣化という現象が加わります。そして、東大の井野教授が中性子照射劣化による全国の原子炉脆化のワースト7というのをあげていて、その1位が玄海原発だったりします。
水で急激に冷やされると、脆化した金属はパリンとガラスのように割れてしまうことがあります。関西電力の社長は「原子炉容器はテポドンが当たっても大丈夫」と豪語しましたが、たとえミサイルが命中しなくても緊急冷却装置が働き、水で急冷されることで原子炉容器は破断の恐れがあるのです。福島でもそれを恐れて、急冷できず大惨事につながったとの見方もあります。そして、緊急冷却装置が働いた際、圧力容器が割れるという大惨事が起こる可能性が最も高いと指摘されている玄海原発がいま、再稼動されようとしているのです……。
↑↓閑話休題。とはいえ、鉄はとても素敵な素材です。異形鉄筋を熱し、曲げて、ちょっと叩いて作った洗濯物干しのフック。
↑熱して叩き、穴をあけ、真ちゅうのマイナスネジで留めます。
↑こちらは自然木と組み合わせた「えもん掛け」。軟鉄(足場用番線)であれば、熱しなくても叩くだけで、変形させることが可能。ちょっと鎚痕を付けるだけで、鉄は表情をがらっと変えてくれます。