まだ若かった頃の話、ひとりで海外に行ったときに好んで行く場所があった。自動車を解体する解体屋さんだ。解体屋さんをお訪ねすると、その国のことがとてもよくわかるような気がした。アメリカのジャンクヤードでは、泥棒と間違えられて銃を向けられ撃たれそうになったし、インドの解体街では日産のA型エンジンに、三菱のキャブレターを付けたカローラを見つけて喜んだりした。エンジンは日産、キャブはむしむし(三菱のこと)、車体はトヨタが良いのだそうだ。
でも一般的に、自動車解体街にはどこか危険な臭いが付つきまとっているのが普通だ。ところがそういたものが一切なく、解体屋のくせに日本のホームセンターよりもはるかにお洒落で、しかも、解体車やそこから外された部品をとても大切にしているとても素敵な町があった。
リサイクルなどいう名前をつけて自動車部品を粉砕することもなく、中古部品のような古いものをとても大切にしている町。そこで働く人たちも、そしてお客さんもとても人が良くて、そこで知り合った人となんだか気が合ってしまって、その日あったばかりだというのに、その人の家に泊めていただいたりもした。さっきまでまったくの見ず知らずで、たまたま自動車解体屋さんで知り合っただけのウサン臭い東洋人の若者(そう、当時はまだ若者だったのです)を泊めてくれるような人たちが住んでいる町、それがクライストチャーチである。どうかみなさん、ご無事でありますように……。
↑「(日産の前)プリンス自動車の頃のG7エンジンなんてないよねぇ」と言ったら、ニヤッと笑って奥に消えた。そして赤いトレーナーの彼が手に持っているのは(小さい方の写真)、なんとスカイラインS54用6気筒ヘッド。日本にもこんな解体屋さんはまずないのである。
歴史的な建造物に限らず古いものの価値をみんながしっかり分かっていて、それらを大切にし、ユニークなアイデアと遊び心で、少ないお金ながらも豊かに暮らすことを知っている人たちがたくさん住む町、それが解体屋さんを通して見た私のクライストチャーチ、これからもこれまでどおり、多くの人に多くの影響力を持ち続けて欲しい、と、心から願う。