八ヶ岳には仙人が何人か住んでいます。そのウチのおひとり、自称、ヨレヨレ仙人さんが、太田胃散の缶を持ってウチにいらしたのでした。
仲間内では「ヨレ仙さん」などと呼ばせていただいているのですが、でもこの方、飄々としていて、年も私なんかよりだいぶ年上ではあるのに、頭の回転はぜんぜんヨレヨレではなくて、リナックスを操り、八ヶ岳の仲間でGMカウンターを製作した際はそれようのプログラムを書いてくれたりしました。
で、ヨレ仙さんが持ってきてくれた太田胃散の缶がこれ。
真ん中にもうひとつ別の缶が刺さっていたりして、なんとも不思議な物体。そしてなんとこれが、ベクレルモニターの検体用容器とのことなのです。
↑そしてシンチレーターを内蔵した検知部はこちら。ワインのコルク栓を少し大きくしたくらいの大きさなのですが、この中にシンチレーター(フォトダイオードHamamatsu S6775)や増幅回路、検知装置など複雑な電子装置がすべて内蔵されているそうです。
ヨレ仙さん曰く「これは市販品ですよ」とのことなのですが、これに至るまで、部品を集めてこの部分の自作も試みていたようです。ただし、この種の検出装置が精巧で高感度であるためには、(ノイズを拾いにくいために)電子部品それぞれができるだけ狭い面積の中に隣接している必要があるそうで、その点でもこのアルマジロという検出装置はとても優秀でコストパフォーマンスも高い、とのことでした(ただしこれがあれば誰でも測れるというものでもなく、取扱説明書も付属していないそうで、かなりの上級者向けのようです)。
まずは、太田胃散の缶の内部に検体を入れます。その後、中筒(ライターガスの空き缶)を太田胃散の缶にセットし、缶の上下を引っくり返した状態で挿入すると中筒の周囲が検体に取り囲まれることになります。この状態で、アルマジロを中筒に入れ、測定するという寸法です。
このアルマジロという検出装置は、検知した放射線を音声出力に変換してくれる装置で、これをパソコンのマイク入力から取り入れ、アプリケーションを使ってスペクトルとして解析するというのが基本原理。ただ、そのためには、ライン入力で混入するノイズなどを極力抑える必要があり、そのためにオーディオ用のUSBアンプ(5000円弱)を使用しています。
↑これがそれ。
こうして取り込まれた音声入力を、ベクモニというフリーソフトを使ってスペクトルのグラフに変換し、さらにはイマデンのスペクトル解析ソフトなどを使って核種ごとのスペクトルの校正を行う必要があります。
そのためには基準となる核種を含んだ線源が必要で、それに適しているのが古いガソリンランタンのマントル、とのことでした。たまたまウチに1966年式のコールマンの軍用ランタンがあり、その当時のスペアマントルの新品がそれに付属していたのでもしかしたらそれが線源として使えるのではないか?と思い、ヨレ仙さんに連絡をしていたのでした。
自作ガイガーカウンターをこのランタン(ベトナム戦争の頃のコールマン)に近づけると線量があがることを、以前確認していたのでした。
そこで試しに、当事ものの新品のマントル(茶色の袋入り)を自作ガイガーカウンターのJ408管の上に置いてみたところ……。
放射線に打たれたことを示すモニターランプが点滅ではなく連続点灯してしまい、受信音も連続音に変わったのでした(BG値134で350CPMオーバー、まだまだ上がる感じでした)。
これを持ち帰っていただき、アルマジロで計測してもらいました。そしてその結果が下のグラフ。
コンプトン効果の補正などがまだ完全でない可能性があるとのことですが、
Tl(タリウム)208 2614 eV
Tl208 1593
K(カリウム)40 1460(ダイダイ色の線グラフ)
Ac(アクチニウム)228 969
Ac228 911
Tl208 583
Ac228 338
Pb(鉛)212 238.6
Bi(ビスマス)Xray 77.1
などが検出でき、この同じマントルをゲルマニウム半導体計測器などで計測した結果と校正することで、実用化まであともう少しというところまでどうにかこぎつけることができた、ということでした。
太田胃散の周囲を鉛で遮蔽したり、やらなければいけない作業もまだまだありそうなのですが、時間をかければ検出限界値を下げることも可能で「一家に一台ベクレルモニター」というのも非現実的な話ではなさそうです。
秘密保護法にしてもそうだけど「分からない」という不安がさらなる不安を生んでしまっていると思います。生産者との間にこれ以上の分断を生まないためにも、しっかりと正確に計測し安全なものを感謝と共にありがたくいただく……ということがいま一番必要なように私は思っています。