福島原発告訴と朝日新聞の記事

 何年か前に、きのこのほだ木への散水設備というのを作りました。それ以降、たくさんきのこが採れるようになったのですが、今年の秋は、その散水設備をセットしていません。しかしそれでも、雨が降るたびに食べきれないほどのきのこが発生しています。きのこたちに罪はないのだけれど、人にあげても喜ばれないし、もちろん売ることもできないし、なんだかいつもの年よりも自家消費量が多いような気がして、そのこともちょっと心配になったりしています。

 11月16日付けの朝日新聞に、福島原発告訴団のことが紹介されていました。
「これだけの人が捜査を迫るのは異例だ」とも書かれていましたが、記事の最後に、「ただ、事故の発生を予測できたかや、障害と事故との因果関係の証明など、刑事立件には困難が予想される」などと記載されていて、なんだか不起訴へのレールを敷くような終わり方でした。新聞記者としてこの事故に接していれば、東電保安院の言っていたことに多くの矛盾を感じているはずなのに、こんな風な記者の個人的な感想を書いて終わる必要があったのだろうか?

 事故の発生を予測できたかどうか?
これはあきらかに予測できたと私は思います。そのことの具体例は山ほどあると思うけど、ふたつのことを例に挙げ、なぜこれほどまでに悲惨な事故が起きてしまったか、そしてそのことを東電保安院は予測できたはずだとことを告訴団の陳述書で書きました。ちょっと長くて申し訳ないのですが、私が書いた告訴の陳述書を転記させてもらいます。


 今回の原発事故が悲惨で被害が膨大である原因のひとつは「分からない」ということにあるように思います。放射線は目に見えないし、臭いもしないので分からない。食べ物ひとつ取ってもそれが安全かどうか正確には「分からない」。安全かどうか分からないものを愛する子供に食べさせるわけにもいかず、そこに、とらえどころのない苦しい被害が発生します。
 キシメジ201ベクレル、コウタケ126ベクレル、私の住む山梨県北杜市でも、キロ当たり100ベクレルを超えるキノコが出てしまいました。半減期の短いセシウム134の含有率から考えて、これらの放射性物質は福島由来である可能性はまず間違いありません。
 県の担当課に問い合わせたところ、この秋採取したアカハツも、いまちょうどたくさん採れているアミタケも、それに山取りキノコのメインともいえるハナイグチ( ジゴボウ) も去年も含め、北杜市のものはまだ検査をしたことがない、とのことでした。
 きのこ、特に菌根菌はセシウムを多く凝縮すると言われています。しかし、近似種では規定値を超えるきのこが報告されているにもかかわらず、検査さえされていないのですから、分からないのです。原木まいたけの栽培には手間がかかります。原木をドラム缶でひと晩かけて煮て除菌し、その後、植菌し吸気シートに包んで菌の少ない部屋で半年かけて管理して菌を増殖し、その後、雑木林の林床に埋め込み2年の歳月がたってようやく発生します。その見事なマイタケを、今年はそれが安全かどうか分からず、よって収穫することができずに腐らせてしまいました(きのこは放射性物質を凝縮してくれるようなので、乾燥させ、人のあまり近づかない安全な場所に保管しています)。
 この地域には栽培品に限らず山採りキノコで収入を得ている人が思いのほかたくさんいます。軽自動車の新車が一台買えるくらいの大金を払って「止め山」を買うということも(おととしまでは)行われていました。一種のバクチみたいなもの、とのことですが、それでもおととしまではペイするくらいの収入が見込めたわけです。
 この地域には山採りキノコやジビエを食材に料理を出すお店もたくさんあります。これらのお店の客足が減っているのは風評被害といいたいところですが、調べていないのだし、調べたら出るかもしれないのだから、お客さんを責めることもできません。かといってベクレルモニターは(GMカウンターと違って)とても高価ですし、測定に時間と手間、それに測定には大量の食材が必要になります。料理を出すお店にそれを課すのは筋違いだし、百歩譲ってそれをお店に課したとしても、それにかかる負担を東電や国が保証してくれる確約も現状ではありません。
 安全かどうか分からないので、出荷もできないし、料理にも出すことができない……、安全かどうか分からないので、お店に行って食べることもできない……。
 安全かどうか「分からない」ことによって生じたこれらの被害なのですが、その中で確実に「分かっていた」ことがひとつあります。
 それは「安全かどうか分からない」ということによって、甚大で悲惨なる被害が生じるということ、このことを関係者たちは「確実に」分かっていた。これまで原発にかかわっていた電力会社や彼らを監督する立場にあった人たちは、放射線の専門家をかかえているわけですから、少なくともこのことは「確実に」分かっていたのです。しかしそれを隠し、原発は絶対安全なのだから今回のような甚大で悲惨な被害など起こるはずがない、と広報していたことは詐欺であり、その被害の甚大さ悲惨さから考えるとこれは犯罪としか言いようがないと私は思います。


 もうひとつ、指摘させてください。放射線と共に原子力のことは分かりにくく、我々、素人には分からないだろうからと、隠していることがほかにもたくさんあるようにも思えるのですが、ひとつだけ指摘させてもらいます。
 今回の地震東電地震の15分後に福島第一原発1号機の冷却装置を手動で停止していたことを公表しています。
 これに関してメディアは「オペレーターの人為ミスだったのでは?」と伝えましたが、東電は「原子炉の破損を避けるため、マニュアルに従い手動で冷却を停止した」と説明しています。保安院も「マニュアル通りで、オペレーターのミスではない」と説明しメディアもそれに納得してしまったようでした。
 しかし実はここに大きな問題があるように思います。私は古いクルマのレストアを趣味にしています。自動車レストアの主な作業は部品のサビ取りで、効率のいい方法にサンポール(塩酸) を使った酸洗いがあります。しかし自動車のレストアを行う人で、車体を支える板バネなど強度が必要な部品を酸洗いする人はいません。これはなぜか?というと、塩酸や硫酸といった強い酸を使って酸洗いをすると、鋼鉄は水素脆化(すいそぜいか)という現象を起こしてしまうからです。脆化した部品は、突然破断します。クルマを支えるバネが突然、折れてしまったら大変なことなので、サビがひどくても酸洗いは行わないのです。
 脆化は外観からは計り知れず、あるとき突然、しかもジワリとではなく、ガラスのコップが割れるようにパリンと一気に割れてしまうのが特徴で、それほどに脆化という現象は恐ろしく、自動車レストアの場合、強度が必要とされる重要な部品はいくら錆びていても酸洗いを行わないのが常識です。
 原子炉でも水素による脆化は起こっています。しかしそれ以上に恐ろしいのは、中性子を浴びていることによる中性子脆化という現象で、これは水素脆化とは比較にならないくらい金属をもろくし弱くしてしまうといわれています。たとえば玄海原発1号機では、原子力保安院の調べでさえ脆化遷移温度が90度C以上であるといわれています。作った当初は氷点下であったものが、この温度まで上がってしまっているのです。原子炉の安定化温度は100度C以下なわけですが、つまりは安定化温度まで急激に温度を下げてしまうと、原子炉はパリンと割れてしまう可能性がある、ということです。
 ところで、福島第一原発の一号機(GEのMarkI型原子炉)には、外部電源なしで蒸気圧だけで動かすことができる冷却装置がついていました。万が一、全電源を喪失しても、蒸気タービンを使って原子炉を冷やす装置がついていたのです。今回もこれを作動させ、その結果、炉の温度は一気に100度以上降下させることができたのです。
 ところが、中性子脆性の起きている原子炉では、熱いコップに突然冷たい水に入れた時のように、炉が脆性破壊されてしまう危険性が高く、一気に温度を下げることができないわけです。もしも、今回のように建屋ではなく、原子炉本体が爆発してしまったならば、東日本の広い地域に人が住めなくなってしまうような事態になってしまいます。
 そのためオペレーターはマニュアルに従い、徐々に冷却したのですが、それでは炉心内部の温度上昇に間に合わず、炉心のメルトダウンを止めることができなかった……つまり、こうしたマニュアル(1時間に55度以上一気に冷却してはいけない)が存在したということは、臨界状態を制御できなくなったような非常事態で緊急停止させようとした場合、外部電源があろうがなかろうが一気に冷やすことはできず、メルトダウンを防げない可能性がある、ということを、東電や保安員は知っていた可能性が高いと思われます。
 こうした状態にあるということを知っていながらも原発を運転していたとすると、これはあきらかに犯罪であると私は考えます。