新炭林の萌芽更新 と 薪貯金

 この写真を見てみなさんは、どう感じられますか? 
桑畑にも似ているけど、これはクヌギの林。

 どの木も、根元から伐られてしまっていてなんだかちょっと可哀想にも見えますが、虫好きの私にはちょっと嬉しい光景だったりもします。


 日本に住む人の多くが再生可能エネルギーをやめ、手軽で便利な化石燃料に頼るようになってから、実はまだ数十年しかたっていません。しかしそれによって里山林の主役である薪炭林やそこに棲む生物たちには大きな変化がおこりました。それまで薪炭林は定期的に皆伐され、萌芽更新によって再生されてきたのでした。
 そして上の写真が萌芽更新のため台木部分を残して皆伐されたクヌギ林です。ちょっと可哀想な姿にも見えますが、クヌギやコナラはこのあとひこばえが発生し、7〜15年で再び薪炭として利用できるまでに成長します。つまり薪炭林は7〜15年のサイクルで再生可能なエネルギー源なのです。またこの切り株、よく見ると二回目の萌芽更新であることがわかります。


 薪炭林を管理し、薪を燃料として使っていたこうしたサイクルは少なくとも数百年以上、もしかしたら千年以上続いていたものと思われます。そのためにそこに棲む生物たちの遺伝子に萌芽更新のサイクルが刻み込まれるまでになっているのですが、ここにきて薪炭林が更新されなくなってしまったことで、里山の雑木林に棲む生物相は現在、かなり貧弱なものになりつつあります。たとえば里山に棲むゼフィルスの仲間、オオミドリシジミやキリシマミドリシジミ、ミズイロオナガシジミ、ウラナミアカシジミなどは、面白いことに皆伐され再萌芽した「ひこばえ」に卵を産む習性があります。

↑上の写真はひこばえを特に好むと言われるウラナミアカシジミ。私がこどもの頃は横浜にも薪炭林があり、年に一回、オレンジ色の花吹雪が舞うかのようにたくさんの個体が発生していました。いまは薪炭林が萌芽更新されなくなり、最近は自然が豊かな白州でも希少種となりつつあります。

↑台木が萌芽し、ひこばえが成長しつつあるクヌギ林。里山ゼフィルスの絶好の生息地なのですが、最近はほぼ姿を消してしまいました。かろうじてシイタケの原木栽培用に定期伐採された林でかろうじて見ることができます。しかし写真の林も、圃場整備により今年限りでなくなってしまうとのことでした。


 こうしたかつての人の暮らしとリンクした生物たちは、元々こうした習性をもっていたのではなく、たまたま人の習性に合った遺伝子を持った個体がいて、そうした個体が有利に世代交代できた、ということにより、そうした遺伝子を持っていなかった個体(の遺伝子)が淘汰されていった、ということのように思います。ヒトと違って虫は、世代交代のサイクルが早いので1000年という時間は、そうした淘汰が遺伝子に刷り込まれるのに十分な時間だったように思います。虫が好きなのでここでは蝶をたとえに挙げましたが、他にも林床の植物だったり、小動物や大型哺乳類、あるいはキノコなどの菌類に至るまで、人ともに里山に暮らしていた多くの生物たちはいま、激的な環境変化に見舞われ、それに追従できず絶滅に瀕していたり、あるいは逆に個体数を異常に増やしてしまったりしているように見受けられます。

 そんなこともあって、虫が主役の虫草農園ではできるだけ薪を使うようにしています……というのは半分真実で、半分ウソ。正直なところは、お金稼ぎがあまり得意ではないので、銀行の預金が少ない、ということがあります。その分せめてもの貯えとして薪棚に薪貯金を蓄えようと。
 それともうひとつ、政治家のみなさんにいまみたいな税金の使い方をされてしまっては、いつか日本円は紙切れになってしまうのでは? という危機感を持っていて、銀行ではなく薪棚の残高を気にするようになりました。畑もあるし、田んぼも家族が食べていくくらいはお借りできているので、あとはよく乾いた薪さえあれば、質素ながらも美味しいものを食べて、案外幸せに暮らせていけるのではないか? という思いもあります。
 あれあれ、のっけから話がだいぶ脱線してしましたが、きょうブログを書こうと思ったのは、このところ薪棚の作り方を聞かれることが何度かあったので、薪棚の話をするつもりでした。ここでちょっと軌道修正。
 薪棚を作る上での一番のポイント、それは薪を濡らすことのない薪棚を作ることだと思います。つまり軒を深くする、ということ。木の含水量が高いと、カミキリやクワガタなどに卵を産まれてしまったり、あるいは菌類に醸されてしまったりします。そのためのひとつの方策としては、虫や菌たちが活発になる夏までの間にできるだけ水分量を抜くこと。それにはできれば南向きの日当たりのいいところに薪棚を作りたいところですが、とはいえ軒が浅く雨が降ったときに薪に雨が吹きかけてしまうことのほうが虫や菌によるダメージは大きいように思います。

↑当初作った薪棚は軒がかなり浅かったのですが、それだと薪が痛みやすく、いまでは写真のように薪の長さの倍以上、軒先を伸ばしています。

↑軒の骨組みはいろいろ考えられますが、波板を貼る場合、このあたりがシンプルな骨組みではないかと思われます。屋根の上に人が載って作業をすることがある場合は、これに頬杖(ほうずえ)を追加するといいと思います。

↑コンテナとコンテナの間に屋根をかけて物置にしているのですが、コンテナの壁面のボロ隠しを兼ね薪棚にしています。材は、大工さんがハネた曲がりやひねりのあるCCA材。薪棚であれば、曲がっていても強引にコーススレッドで修正して使えば十分。

↑薪(特にクヌギやコナラ)は思いのほか重いので、薪棚の底はしっかりした構造である必要があります。積んでいたら重さに耐えられず土台の材が折れたなどということが以前ありました(薪棚が崩壊するとかなり危険です)。また基礎は独立基礎で十分ですが、寒冷地では凍結深度まで掘ってコンクリートガラなどを縦に入れ、その上にブロックなどを設置するようにしています(凍結で基礎が浮き沈みしたために薪棚が崩壊してしまったという危険な目にあったこともありました)。

↑これはコンテナの上に降った雨がコンテナ側面を伝う際のトイ。せっかく屋根がかかっていても、壁面を伝わる雨水を薪が拾ってしまい、薪棚の中を雨水が伝うと薪は濡れ、菌類に醸されスカスカになってしまいます。とはいえ、壊れたブラインドをシリコンシーラーで貼り付け、水の通り道を誘導しただけのもの。このあとここに薪がさわらないように縦に1本平板を通しました。
 そして薪棚でもうひとつ大切なのは、パーテーション。薪は下から積み上げるわけで、仕切り板で分かれていないとその薪棚が空っぽになってからでないと、そこには新たな薪を積み始めることができないわけです。で、以前は縦横に仕切り板を入れていたのですが、横に仕切りを入れて二階建てのようにしてしまうと薪を積みにくい上に、横の仕切り板の上に木くずや虫の糞がたまり、風の強い日は薪を取り出す際、それをかぶってしまうことがあります。つまりカミキリの幼虫の糞を目の角膜で受けてしまう、ということ。これ結構つらいです。というわけで、オススメとしては縦方向にだけ仕切った方がいいように思います。

↑ただし縦方向にだけ仕切った場合、側壁にはかなりの力がかかります。
 そこで、側壁となる柱の固定方法に少し工夫が必要になります。木口にコーススレッドを打って、柱を固定しただけではコーススレッドが抜けてしまう危険性があります。

↑既存の建物の軒下に作った薪棚。既存の建物に固定してしまうのが簡単だけど、寒冷地の場合は既存の建物は動かないのに、薪棚だけは凍みあがりやその後の凍み下がりで上下に動くのでそのあたりを考慮する必要があったりします。

↑これは廃材を使ってL型のプレートを作り、柱の底の部分を少し彫って土台の上面と固定したもの。柱の上部を既存の建物に釘や木ネジなどで固定した場合、土が凍み上がったり下がったりすると柱の上部の固定が簡単に外れてしまいます。金属製のL型のプレートを使うと凍み上がったり下がったりする分をここである程度は吸収してくれます。

↑もっと簡単にやるには、柱にドリルで穴をあけ、羽子板(と呼ばれる金具)を通す方法。金属は木と違って粘い(ねばい)ので、破断しにくくこうした用途には適しています。

↑これが羽子板。ホームセンターに行けば新品の羽子板を適価で手に入れることができますが、古い建物の解体作業などを手伝うことができると、味のある手づくりの羽子板を見つけることができたりします。

↑こちらは薪棚ではなく薪小屋。収納力には優れているのですが、風の抜けが悪く、乾きにくいという欠点がありますが、貯蓄がたくさんあれば長い時間を使って乾かすことが可能なわけで、薪大臣たちはこちらのタイプを好む傾向にあります。

↑薪小屋は奥の薪を取り出した積み出しやすいように中で人が立てるくらいの高さがあると使いやすいように思います。ただし慣れてくると奥の列も、外から投げてもうまく積めるようになったりします。

↑もうひとつオススメなのは、ガレージなどの壁面を薪棚にしてしまう、という方法。柱に側圧がかかるので、できれば写真のように柱の脇は井桁に組むといいようです。

↑薪だけでなく「焚き付け」の材料となる柴もストックしています。特にコナラやクヌギの乾いた柴は火力も強く、ヤカンでお湯をわかすくらいだったら、しっかり乾いたナラ系の柴が少しあれば、あっという間にお湯はわきます。ということで最近は柴貯金も併設。

↑いろいろなやり方を試してみましたが、コードテープの先端にモヤイ結びで輪を作り、そのヒモを一直線に置き、そこに小枝を(あとで抜き取りやすいように方向を揃えて)重ね、ある程度の量が溜まったら、先端の輪にヒモの他端を通して、グイグイとヒザで押しながらヒモを引き締め束ねる、というのが柴を束ね方としてはいいように思われます。

もっと簡略にやるには小枝を集めて山を作り、そこに波板を被せてその上にオモシをおく方法。そして林の中に波板を置いておくと、その下にはたくさんのオニグルミの実が収納されるようになります。ヒトだけでなく、ネズミやリスもクルミ貯金を持っていたりするのです。
 里山に生きるヒト以外の多くの生物たちも、ヒトという動物がお金にあまりこだわり過ぎず、どちらかというと銀行の預金よりも、薪貯金を大切にして生きてくれることを望んでいるのではないかと思うのです。地球上の生物の中でヒトだけが特別な存在ではなく、ヒトも自然と共生し、それをうまく使い自然から給わりながら、それぞれに幸せに暮らしていくということが、生物の多様性にも大きく貢献し、そしてそれは生態系のバランスをより強固なものにしてくれるのではないか? ということを自然の近くで暮らしてみるとしみじみ感じるのでした。