シカの命のいただき方1 (解体のことを紹介する写真があります。苦手な方はご覧にならない方がいいと思います)

 サクラ、モモ、ユスラウメ、アーモンド、花々が咲き乱れ、春爛漫。本来はいまがシカの最も少ない時期なのですが、このところ、夜、外にでると、毎晩のようにシカの群れを見ます。

 複合したさまざまな原因によるものだと思われるのですが、いまこの地域では猛烈にシカが増えてしまっています。農作物はもちろん、樹皮食害による樹木の枯死や、夏場はエサを求めて高山にまで登り希少な高山植物まで食害されるようになってしまいました。従来の生態系を維持するためには、この地域だけで年間8000頭という気の遠くなるような数のシカを駆除する必要がある、とも言われています。

 おそらく、シカが増えた一番の原因は、ヒトが化石燃料を使うようになってしまったから、ではないかと思っています。これまで薪炭林として管理されていた里山化石燃料が使われるようになって放置され、雑木林の林床に常緑のササ類がはびこり、それらを冬季のエサにすることで越冬に失敗して死亡する個体が減ったこと、これが有力な原因ではないかと思っています。
 その他にも、地球温暖化や冬季に使用される融雪剤(塩化カルシウム)の影響などもあるのでは?などという説もあります。


 そんなこともあってか、このところ、ワナにかかったシカをいただくことが続けてありました。生態系維持のための個体数管理のために、猟師さんたちはたくさんのシカを仕留める必要があります。そしてその多くは有害獣駆除として写真を撮った後、捨てられてしまう(埋められてしまう)、とのことでした。
 それではシカの命が報われない……慣れない素人作業ではあるのですが、いただいたシカを解体し、お肉としていただくことにしたのでした。続けて解体をするうちに技術も少しだけ上達したように思います。それらを忘れないための備忘録として、また全国各地で似たような状況にあると思うので少しでも参考になれば……、ということで、少し迷うところもあったのですが、ブログで写真とともに紹介させていただくことにしました。
 また、ここはこうした方がいいよ、といったアドバイスもいただけるととてもありがたいです。よろしくお願いします。
 そんなわけでこの先は、目にするだけでもかなりキツイ写真が続きます(実際に行うのはもっとキツイわけですが)。苦手な方はご覧にならない方がいいように思います。
 ただ……、我々が日頃いただいているお肉は(パックされてスーパーに並んでいるお肉は)、こうした作業を誰かがどこかでやってくれている、ということもしっかり受け止める必要がある、とも思います。







■シカの解体■
 動物をおいしくいただくために大切なのは放血(血抜き)という作業だと言われています。
「トメ」を行った後、できるだけ速やかに、血抜きをする必要があります。
今回いただいたシカはいずれも、猟師さんが放血の作業までを行ってくれています。
実はここまでの作業(特に「トメ」)が一番、辛い作業であるとも言えます。

 以下、備忘録として細かな作業を記録します。
●運搬●
(写真はそれぞれクリックすると大きくなります)
 猟師さんたちは、コンクリートを混ぜるときに使うプラスチック製の「フネ」を使っていました。
似たものとしてカイコを飼育する際に使われていたトタン箱を我が家では流用しています。
こうした入れ物がないと、軽トラの荷台からシャーシーにまで血が流れてしまいます。
●放血● 

 地面に血を流してしまうと臭いがしばらく取れないので、まずは穴を掘ります。
今回頂いたシカは頸動脈を切ってくれてあるので、ユンボを使って足から吊るし、血抜きを行いました。
ただし、内蔵を損傷してしまっているシカの場合、足で吊るすと損傷した内臓の臭いが全身にまわってしまう恐れがあり注意が必要です。
●内蔵を取り出す●
 放血と共に、できるだけ早く内蔵を取り出すこと。これがシカをありがたくいただくためのポイントのひとつのような気がします。特に弾の当たりどころが悪く、内蔵を傷つけてしまっている場合は早く取り出したほうがいいように思います。
 実際に試してみたところ、内臓を取り出す際は、吊るさずに地面(あるいは台の上に)寝かせた状態(両腕、両足を開いた腹ばいの状態)で行うのがいいように思いました(内臓の臭いを移さないという点で)。
 足から吊るすと内蔵は抜きやすいのですが、下腹部に損傷があったりすると、大腸や膀胱、肛門腺などから滲み出した臭いのある液体が、全身にまわってしまう恐れがあります。
 内蔵を取り出すため、まずは、おなか側の皮を首から肛門の近くまで切ります。

 皮だけを切ること、これが重要。肋骨のあるところは下に肋骨があるので皮を切るときに内臓を傷つけてしまうことはまずないと思うのですが、肋骨より下は慎重な作業が必要です。刃を横に削ぐようにして皮だけを切ったり、あるいは刃を上にして皮だけを切る、あるいは皮を上に引っ張りあげた状態でハサミで皮だけを切るなどの方法を駆使します。

●胸骨をはずす●
 心臓などの内蔵は肋骨の中にあるので、内部のモノを取り出すために、左右の肋骨(ろっこつ)をつないでいる胸骨(きょうこつ)を外します。

↑上に持ち上げられているのが胸骨で、長穴の左右の骨が肋骨。
 胸骨と左右の肋骨の間に軟骨の部分があるので、肋骨内側の内蔵を傷つけないように注意しながら、二箇所ある軟骨の部分で胸骨と肋骨を切り離します。軟骨の部分は骨と骨の繋ぎ目なのでよく触ってみるとなんとなくどこだか分かります。プロはナイフで上手に取るのだと思いますが、私は使い慣れた植木バサミで軟骨を切断しました。日本の植木鋏はとても良く出来ていて、剪定ばさみと違い、刃と刃のケンカの具合を手の握り具合で調整できます。そのため、太枝や肋骨などの太モノから、皮や布のような薄くて切れにくいものまでひとつハサミで切ることができるのです。
●恥骨を切る●
 次に、大腸や膀胱などが入っている下腹部、上側の骨、恥骨を切って内部の臓器を取り出せるようにします。このあたりはまだ今後の課題で、どこで切っていいのか、苦戦しています。プロはナイフを恥骨に突き立てて左右に分けるようなのですが、私のような素人がやると内部の臓器を傷つけてしまいかねません。とくにこのあたりの臓器は臭いが強いので注意が必要です。結局、歯の細かい造作用のこぎり(ゼットソーなど)で、胸骨の時のように縦に2本切って溝を作り、そこから取り出しました(骨を切る際、金ノコを使う方が多いようですが、金ノコよりもゼットソーの方が、引き切りなので表面だけを切るのに適しているように思います)。

↑恥骨がどんな構造で、どこで切ったらいいか、探しているところ。その間にも、反芻胃は内部で発酵し風船のように膨らんでくるのでした。これが破れたら大変。偶蹄目によるメタンガスの排出量は馬鹿にできない、というのもちょっと実感としてわかった気がしました。
●内蔵をとる●
 ここまでできたら、いよいよ内蔵を除去します。まずは喉の部分で(洗濯機のホースのような)食道を切って、食道を胸骨の間をとして内蔵を下に引き出します。大腸の部分で伸ばして、それより上の部分は農業用コンテナに収納しました。その状態で肛門から大腸内の内容物が出てこないように注意しながら慎重に肛門を切り、恥骨の間を大腸を通して内蔵を抜きます。
 慎重を期すのであれば、血抜きのため足で吊った際、肛門周囲の皮を切り、肛門の内部のモノが外に出てきてしまわないようにヒモかタイラップで縛るといいように思います。また、この状態になっていれば、恥骨を切らなくても恥骨と腸骨の間を肛門を通すことで内蔵を抜くことも可能かもしれません。
 肛門同様、食道側も内容物がでてこないように注意が必要です。喉の下の方で食道を切るとそこから反芻していたものが出てきてしまうことがありました。
 ほかにも食べられる部分があるのかもしれませんが、内蔵は心臓(ハツ)と肝臓(レバー)のみを食用としていただき、その他の部分は穴を掘って埋めました。心臓や肝臓には大量の血が入っているので、できるだけ早く流水に付けて血抜きをします。
 ここまで終われば、まずはひと安心。この先はゆっくり時間を掛けてやっても大丈夫で、この状態で吊るして皮を剥ぎ、肉をしばらく熟成させる人もいるようです。でも、寒い季節であればいいけど、ハエのいる季節の場合、個人の施設では切り分けない状態で熟成させるというのは難しいように思います。
●皮はぎ●
 内蔵が抜けたら、ツノで吊って、頭側から皮を剥ぎます。ユンボで吊りましたが、立木やガレージの梁などで吊っても問題ないと思います。

↑首の周囲の皮を一周切って、そこから皮を剥ぎます。おしり側からはぐよりも、頭側からはぐ方がはがしやすいと言われていて、そのためにも頭から吊るす必要があります。首を一周切ったら首の皮をロープに縛り、クルマで挽いて強引に皮をむくという方法もあるようで、機会があったら試してみたいと思います。

↑皮を使う場合は、皮と膜の間の脂肪の部分に刃を当てながらむいていいます。このとき、できるだけ皮側に肉を残さず、筋膜もできるだけ肉側に付けた状態にします(皮をなめす際、皮の側に残ってしまった肉や筋膜はは高圧洗浄機を使うと比較的簡単に落とすことができます)。食用のお肉の処理としては、この時点ではまだ臭いの元になる液がそこいら中に付着しているので、筋膜をできるだけ傷つけないようにして、筋膜で中のお肉をカバーしておく必要があります。

↑足は首同様、一周グルリと皮を切ると、洋服を脱がせるようにして外すことができます。
 内臓と皮が剥がれたらここで入念に水洗いします。
 ソミュール液などの調味液に漬け込む方法でお肉を料理してみるとよく分かるのですが、調味液に1時間漬け込んだお肉は、その後、1時間流水に漬け込んで塩抜きしても調味液の味はお肉に残ります。つまりそれと同じことが、破損した内臓から滲み出した臭い液体にも言えるということです。できるだけ早めに内蔵を抜き、その後、十分に水洗いすることがシカ肉を臭い肉にしないために大切なことのように思いました。
 皮がむけたらここでまた、ユンボから降ろし、首と足先を切断します(首は歯の細かいゼットソーで、足先は太枝切で骨ごと切断しました)。
そしてここから先はお肉の分離、精肉の作業に移ります。
●精肉●
 これ以降は室内のテーブルにシートを敷いて作業を行いました。屋外でやる場合は、軽トラの荷台などをテーブルがわりに使って作業を行う方法もあるようです。

↑テーブルの上に、白の防炎シートを敷き、まずは、ペーパータオルで肉に付いている血や水などを拭き取ります。

↑うつ伏せにして筋肉や筋膜を一枚一枚ていねいに外していきます。宮粼駿は肉が溶け落ちる巨神兵を描くにあたって、この状態のシカをイメージしたのではないか?と思うほど、よく似ていたりします……。

↑肩の外側の筋膜をはがすと肩甲骨がむき出しになります。前足は不思議なことに筋肉を一枚一枚外していくと外れます。

↑背骨のすぐ外側にある背筋、これが背ロース。ここが一番美味しいという人が多いようです(でも、美味しくいただくには背ロースの外を包む、真珠色筋膜をていねいにとる必要があります。

↑背骨のまわりに残っているお肉ももったいないのでへつります。これらのコマ切れ肉は、フードプロフェッサーでミンチにするなどしていただきました。太枝切を使うと背骨も切断可能で、鍋に入る大きさにして煮て、お肉を剥がしたり、出汁をとったりすることができます。
 外したお肉のかたまりは流水にしばらくさらし、その後、部位ごとにさまざまな料理法でいただきました。そのあたりの調理方法はまた別の記事で紹介させていただきたいと思います。
 だいぶ慣れてきたとはいえ、朝からやって、お肉の下処理(筋膜をはがす)までをその日のうちに終わらせようとすると夜中になってしまいます。大型の動物の命をいただくという行為は、肉体的にも、そして精神的にもキツイ作業ですが、実際に作業をしてみると食用のために飼育された大型の動物の命をいただくという行為は、実はそれ以上に「重いモノ」である、ということを実感させられるのでした。