韓国・自作ストーブとオンドルの旅12 アースバック&ロケットストーブの家からのつづきです。
これまでも日本でいくつかアースバックハウスは見ていたのだけれど、実際にひとが住んでいるアースバックハウスは始めてでした。そしてそれがあまりにも素晴らしかったので、その余韻に浸っているうちに、次なる家に着いたのでした。でも、いつの間にかあたりはもう真っ暗。
そして今度の家は、韓国の伝統建築。アースバックハウスとはまた違った凛とした美しさがありました。
外で写真を撮っていたら「わたなべさん、先生が待ってますから、早く中に入ってください」とオハイオさんが呼びに来てくれたのでした。オハイオさんは、今回の旅のコーディネイター。
オハイオ、ありがとう! なんだか迷惑の掛けっぱなしだったけど、でも、あなたのおかげで本当に素晴らしい旅になりました。ありがとう!
で、先生ですが、今回の先生は、オンドルの先生です。
オンドルというのは、床暖房の一種です。最近では化石燃料を使った温水床暖房のことも場合によってはオンドルと呼ぶようですが、ここでいうオンドルは薪を使った床暖房。薪を燃やし発生し暖かな煙を部屋の床下にある煙道に導き、床下を暖めることで部屋を暖房するという、古くからあるけれども画期的で効率のいい薪暖房のこと。今回、韓国に行って、感動し驚いたことはたくさんあるのだけれども、そのひとつはオンドルの燃費の良さと心地よさでした。
↑ここはこの家の台所。そしてここに忍者屋敷のようなカラクリがあったのでした。
↑一見、掘りごたつのように見えるこのテーブル。そこにはミシンにあるような埋め込み式のチョウバンが付いていて、天板が上に開くのでした。
↑そしてその下に秘密の小部屋が。ここがオンドルの焚口なのです。
↑上下、二枚併せになっていたステンレスの薄板を外して薪を入れ、上側のステンレス板はつけた状態で火をつけます。特別なスターターは使用せず、焚き付けようの細枝なども入れず、新聞紙に火をつけそれを薪の下に入れただけであっという間に火がつきました。引きも良くて、煙が逆向するようなこともありませんでした。このあたりにどうもワザが隠されていそうです。
↑床下の小部屋に降ろしてもらって撮った写真がこれ。炎は気持ちよく、奥に引かれていました。それと同時にちょっと驚いたのは左右のレンガ積み。建物の造作に較べると荒っぽく感じられるくらいにレンガの間から目地の土?がはみ出していました。
↑こちらは火のついていないときの焚き口(この家にある別のオンドルです)。燃焼室のすぐ後にもレンガの丘(のような突起)があることが分かります。炎はこの丘を越えて吸い込まれていたのでした。
↑これは典型的なオンドルの焚き口付近の構造図です。この図のオンドルは煮炊きをするかまどと兼用になっているタイプで、焚口のすぐ上に、鋳鉄の羽釜が載り、そのかまどで使われた厚い煙が床下に引き込まれていく仕組みです。
この丘の頂上付近が一番狭くなっていて、図には0.7と記載されています。これの単位は「尺」で、1尺≒約30.3cm(韓国でも寸や尺が使われていることを知らず驚かされました)。つまり0.7は約21cm。この部分で一度しぼられて、圧力を高くしたあと、一気に広い空間に開放することで気圧を下げ、空気の流れを作る構造のように思われました。ベンチュリーで流速をあげるキャブレターの構造に少し似ています。そしてこの部分を「ケジャリ」と呼ぶそうです。
↑そしてその先はココ。この部屋の床下に続いています。つまりこの部屋の床が暖かな煙によって暖められるのです。
この日の夜はここに泊めていただきました。クリーム色の床はタイルのようなスベスベした石。ここがジンワリと暖かくなるのでした。
韓国ではここに薄いタオルのような敷き布を敷いて、その上に横になります。西洋のようにベッドに横になるのではなく床に横になるのです(このあたりも日本の昔と同じ)。
↑今回、泊めていただいた部屋の床はタイル貼りでしたが、オンドルの多くは土を塗り重ね、その表面に紙を貼り、それに蝋のような油をつけて磨いたものが主流。写真は違うオンドルの床ですが、こちらは土の上に紙を貼って仕上げのもの。いずれの場合もベッドのようにクッションの上に横になるわけではないので慣れるまではかなり硬い感じがするのですが、それでも暖かな床というのは気持ちよく、腰のためには良さそうな感じがしました。
↑そしてこの床下を通り抜けた煙は、最後に煙突を通って外に抜けます。驚いたことにこの煙突、PVC製。つまり塩ビ=プラスチックなのです。薪を燃やすことで発生した熱エネルギーは、それだけしっかり熱交換されているということ。
燃費のいいオンドルでは、一日に薪三本で暖かかったり、あるいは一週間に一度焚けばいいというオンドルもあるとのことでした。
↑プラスチックの煙突のトップには、ファンが付いていました。これは現代のオンドルの特長で、煙突トップのファンによって排気を強制的に引くことが可能になったことで、焚口付近がススで汚れることがなくなった、とのことでした。
↑この地面の下に煙突に続く煙道があります。煙突の近くにもケジャリと呼ばれる段差が二箇所ほどあるそうです。それにより煙が一気に煙突に抜けないようになっているとのことでした。
オンドルの部屋に泊まらせていただき感動的だったのは、部屋の室温はそれほど高くないのに、床に座ったり、横になることで、床の暖かさがジワジワと、しかしかなり直接的に体に伝わってくるということ。体にもとても良さそうなのです。
これは、サウナと湯船の違いとも言えそうです。サウナでは100度C近い空気(気体)に全身をさらすことができるのに、100度Cのお湯(液体)に浸かったら全身やけどをしてしまいます。気体と液体(オンドルの場合は固体)とは熱の伝導性が大きく異なり、液体や固体からは直接的に熱が伝わり、しかもそれがとても心地よかったりするのでした。腰痛などにもいいとのことでした。内臓で調子の悪いところがある場合も、そこを暖めるようにして横になるといい、とのことでした。
さらにオンドルは、日本の古民家のような現状が独立基礎の家の暖房装置としてとても向いているように思えたのでした。
そのあたりを含めオンドルに関しても、そしてこのオンドルを紹介してくれた先生、イ テグンさん食生活に関しても、このあともう少し紹介させていただこうと思います。つづく。