熱電対温度計の秘密

 これがいま、一部の人の間で話題になっている熱電対というタイプの温度計です(情報公開が進まず、一部の人の間でしか話題になっていないことは問題でもあると思うのですが)。

 昔、スバル360という空冷エンジンのクルマに乗っていました。空冷エンジンというのは文字通り、空気でエンジンを冷やすという原始的なエンジンなので、エンジンの冷却に水を使わないためオーバーヒートの目安となる水温計(水温は100度くらいまでしか上がらないので測りやすい)というものがなく、なんとなく走っているときの感覚で、「あー、これはオーバーヒート気味だなぁ」などと判断していたのでした。でも計測器がまったくないのは不安なので、比較的高い温度まで測ることのできる油温計というサーミスタのタイプの温度計(のセンサー)を燃焼室から少し離れたところに取り付けるなどして対処していたりしました。
 ところが熱電対の温度計というのがあって、これがなかなか優秀なのです。センサーをライターで炙ると、針は瞬時に跳ね上がるほどにレスポンスはいいし、サーミスタでは不可能な1000度を超えるような高温域まで測定可能だったりします。スバル360のエンジンに付けると、エンジンを吹かすたびに、温度計の針はまるでタコメーターのような動きをするのでした。
 そこで東京の下町の計器屋さんを訪ね、社長のオヤジさんを拝み倒して、スバル360用に熱電対による温度計を作ってもらうことにしたのでした。最小ロッドはたしか300個と言われたような記憶があります。それだけでもうかなりビビッてしまっていて、しかもセンサーに貴金属を使っていることから単価もかなり高くなってしまい、こんなに大金をつぎ込んでしまって、もしこれがぜんぜん売れなかったらどうしよう……などとビクビクしながら、でもどうせ作るならメーター部は昔ながらのバックライト式でガラスも無反射ガラスを使用して……などなど、クラシカルなちょっと凝ったつくりの温度計を特注したのでした(おかげさまで完売し、いまはもうありません念のため)。
 写真右のとぐろを巻いている青色の線の部分が熱電対です。プラチナとプラチナロジウムなど、特殊な貴金属を組み合わせ、その一端に温度をかけると、他端との温度差により電気を発生します。こうして発生した電気の量を測定し、温度に置き換えたのが熱電対温度計です。つまりは電源さえも不要なとてもシンプルな仕組みの温度計で、それゆえに信頼性が高く、原子力発電の圧力容器や格納容器の温度計としても使われています。
 で、いまなぜこれが話題になっているかというと、福島第一原発2号機の圧力容器に取り付けられた熱電対温度計の値が急上昇しているのです。最初に急上昇したのは、サポートスカートトップという圧力容器を支えるスカートのトップ(つまり圧力容器の中では底部に近いあたり)に設置された温度計で、昨年の12月15日あたりから急上昇しました(グラフの水色のライン)。

 しかし、東電はこの温度計は「計器不良」ということにしました。これまでの経験から熱電対の温度計が壊れるとすれば、針がゼロから動かなくなる、あるいはフルスケールを振り切ってしまう、ということが多く、果たしてこのグラフの動きのような壊れ方をするだろうか?と疑問に思っていました。
 ところがその後、圧力容器上部にあるRPVベロシールエリアという部分に取り付けられた別の温度計も上昇を始めたのです。しかも似たようなラインを描いて。
 熱電対タイプのふたつの温度計が似たような曲線を描いて壊れるなどということがあるのだろうか?
 グラフを見てもらえると分かると思うのですが、水色のラインは今年の1月7日頃、一度に一気に下がっています。しかしその後のラインを見ると、それまでのラインの見積もり線上をトレースするかのようなラインを描き続けています。これは計器がおかしいのではないかと疑って、一度、初期化してみたけれど結局は従来の上昇ラインをそのままトレースしてしまった、とも取れます。
http://fukuichi.mods.jp/?p=5%2C10&fname=p02.csv&cnt=100&update=%E6%9B%B4%E6%96%B0
↑パラメーターの最新情報はここから知ることができます(2月4日現在、ふたつの温度計はやはり似たような動きをしています)。


 これに関して、東電の記者会見の際におしどりマコさんがこのあたりのことを質問した映像があるので、下に貼り付けます。
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=k3x8PAekGjw#!
 1:05:10秒頃からこの件に関してのおしどりマコさんの質問が始まります。記者会見で答えている東電の広報官は、2号機圧力容器の温度上昇に関して「私はそのデータを見ていないので知らない」と言い、温度に関しての報告は一ヶ月に一度ということになっているので、次の2月の報告で行う、それを待って欲しいというニュアンスのことを言います。広報官本人は本来は人の良さそうな感じの方なのですが、上部からはっきり答えずとにかくごまかせ、といわれているかのような対応でした。
 その後、一度、他の記者の質問に移るのですが、再び1:13:30秒頃から、おしどりマコさんの質問に戻り、「広報官だけが知らないのかそれとも東電自体がこのことを把握していないのか?」という質問に「知らないということではなくて、私の立場ではいまここでは即答できないということです」とかなり苦しい答弁をしています。
 とにかく、多くの方にご覧になっていただきたい記者会見です。いまなお、こんな状態にあるのです。まずい可能性のあることは、ギリギリまでできるだけ隠しておきたい、という隠蔽体質はあの頃と少しも変わらず、もしも何か起きたとしても、すぐに情報を公開するようなシステムにはなっていないということはあきらかだと思います。
 そしてテレビや新聞も、こうしたことを相変わらず報じません。おしどりマコさん以外の記者は、東電の発表しているパラメーターを果たしてしっかり見ているのだろうか? というような稚拙な質問を続けています。相変わらずのこんな状態では、再稼動なんて、絶対にありえない! と思うのですが、果たして、原子力規制庁はどう判断するのでしょうか?