高島真笑庵さんの個展をお訊ねさせていただきました。
「高島さん」なんて言うと「誰?」と思うかもしれないけど、八ヶ岳近辺では「お月さん」の方が通りがいいですね。廃材友達?でもあるけれど、地域通貨や太陽光発電、それに私にとってはパソコンや電子機器の先達でもあります。
個展のタイトルは『夢見る廃材展』
12月14日からはじまっていて、12月25日まで。19日、20日は休廊。23日には午後3時からお料理予約制(1000円)のパーティがあるそうです。
「galleryTRAX(ギャラリートラックス)」 山梨県北杜市高根町五町田1245 で行われています。
↑これは600型と呼ばれる一番普及していた黒電話の中身を露出させ廃材(落とし込み壁の蔵の柱)に組み込んだ作品(側面に板を落としこむための溝が刻まれています)。4号と違って600型はダイヤル部分がプラスチックで誰も見向きもしなかった黒電話だったのですが、お月さんの手にかかるとこの通り。電話線をつなげばちゃんと使えるそうです(希望があれば販売もしてくれるようですよ)。
↑こちらはメルセデスのストレート6のフルカウンタークランクと木質系廃材の組み合わせ。カウンターウエイトの形状がなんとも美しい……不思議なもので、男の一部はこんな鉄のガラクタに魅力を感じてしまうのです。「あれ? これチェーンが切れたのかなぁ……」なんて、物語を創造しながら拝見させていただきました(ピストンのトップにわずかにバルブが突いたようなキズがありました)。
↑ステッチのように見える部分は、ディスクグラインダーでチュンチュンやりながら焦がしたのだろうか? KuriのKatsuさんはじめ、八ヶ岳界隈でときどき見られる技法だったりします。
↑こぶしの葉を水酸化ナトリウムの溶液に漬け、十分に水洗いした後、電話帳にはさんで……、30年くらい前から原宿の路上で、お月さんは葉脈葉っぱを売っていたそうです。そしてその技術は30年熟成されこんなに美しいシェードに。
個展が行われているギャラリートラックスも、廃材の魅力があふれ出しているスペースです。あの木村二郎さんのアトリエであり、若いアーティストたちの発信の場でもありました。
↑コンクリートと漆喰と荒壁、そしてそこにレリーフ、絶妙のコントラストです。
↑代表作のひとつ。廃材の建具たちを使ったテーブル。
↑こちらは、古民家を支えていたケヤキの柱がベース。
↑これも木村二郎さんの作品です。強いメッセージを感じました。
「You are not machines! You are men!」(「あなたたちは機械ではない! 人間だ!」)
これは映画「独裁者」の中のチャップリンの演説の一部です。
乗船中も常にチャルカで糸を紡ぎながらロンドンの円卓会議を訪れたガンジーはロンドンでチャップリンと会います。ふたりは「機械」に関して話をかわしたと言われています。
そのときガンジーは「失業者を出すような機械の罪悪に反対しているのであって、機械そのものを否定しているのではない」といい、チャップリンはその言葉に深く感銘をうけ、「独裁者」や「モダンタイムス」にはこのときの会話が大きく影響しているのではないか、とも言われています。
ガンジーがインドで議会制改革を行っていた頃は、インドに住むインド人たちには選挙権さえありませんでした。それでもガンジーは絶望せず、ディベートではなくダイアローグで「つたえる」努力を続けています。
お金を稼いでイギリスからものを買うのではなく、自分たちの暮らしを自分たちで作ることで「自由」を自分たちの手に入れることができると。そしてそのひとつが、塩の行進でした。
イギリスが塩を独占し、塩に高い関税をかけたとき、ガンジーは海水を煮詰め、自分たちが使う塩を自分たちで作ることを提案しました(そのあたりのことに興味のある方は、片山佳代子さんの「ガンジーに学ぶこれからの生き方」をぜひ読んでみてください)。
八ヶ岳に暮らすお月さんの逸話はこと欠きませんが、なかでも特に有名なのは、井戸掘りでしょうか? やぐらを組んでバケツを吊るし、ツルハシとスコップで掘った井戸はいまもご自宅にあって使われています。
とはいえ、トラックスの二郎さんも、お月さんも、機械や文明を否定しているわけではありません。二郎さんは昇降盤をこよなく愛していた?し、お月さんは手掘りで井戸も掘ってしまうけど、アナログ時計や黒電話のメカニズムにも精通しているし、私の10倍くらいパソコンを使いこなしています。
社会に流されることなく、機械や文明としっかりと向き合い、使われてしまうことなくそれらを使いこなしているようにも見えます。しっかりと向き合うことで、まだまだ使えるのだからもっと使った方が(地球のために)いいものや、決して使ってはいけないものが見えてくるようにも思います。機械や文明を拒絶するのではなく、人を幸せにするための付き合い方はどうあるべきなのか? それをアートを通して我々に伝えてくれているのではないか……、トラックスに行ってそんなことを感じたのでした。
ところでギャラリー・トラックスはカフェ・トラックスでもあります。甲斐駒が真正面に見える窓辺で、二郎さんの椅子に腰掛け、廃材アートに囲まれながらいただくカフェオレは最高で、至福の時間でした。 差別を生まず、7世代先を生きる人たちにも迷惑をかけず、自由を自分の手に入れるためには、「お金にできるだけ頼らずに生きていく」というのがいいように思っているのですが、だから普段はほとんど外食をせず、外でお茶をいただくこともないのですが、でもたまにはこんなお金の使い方はいいなぁ、と思いました。
↑夕日に染まる窓辺にかかっていたサンキャッチャー。お月さんの作品だからムーンキャッチャーでもあるのかも?
We are not machines! We are men!