正気の沙汰とは思えない!

 「りっしんべん」に「亡」、つまり「忙しい」という字は、「こころを亡くす」と書きます。現代人は毎日が忙し過ぎるのかもしれません。「心を亡くす」ということは「記憶を亡くす」ということでもあり、「過去のことを忘れてしまう」ということでもあります。
 原子力ムラ(原子力マフィア)の住人たちは、それを見越してときが過ぎるのをじっと待ち、そしてここにきてついにやりたい放題、メチャクチャなことをはじめました。反省したり、このような悲劇は二度と起こさないようにしよう……などということは、まったく考えていないようです。あろうことか? こんなニュースが続々と入ってきました。

●あのとき菅直人の元に保安院からSPEEDI(=スピーディ:放射性物質拡散予測システム)が届けられていたら、子供たちを飯館に避難させてしまうといった不幸は避けることが出来た、ということが知られ始めたこの時期に、内閣府原子力安全委員会は「「SPEEDI)」は信頼性が低いため、今後は避難のための判断材料として使わないことが望ましい」との見直し案をまとめたそうです。http://bit.ly/xFeli4
東電は株主に対しては「今回の事故に関して、全役員(歴代を含む)に責任はない」という東電監査役による見解を送付し通知したとのことです。http://bit.ly/wpTr2A

●さらには、原子炉規制法を見直して、廃炉までの原子炉の運転期間をこれまでの40年から、60年に延長する方針を明らかにすると同時に、東電は会見を開き、企業向けの電気料金を17%値上げすることを表明(これ、ほとんど恐喝)……こんなことが許されてしまっていいのでしょうか?
 このままだと似たような原発事故が、もう一度起きてしまうと思います。しかもそれはかなりの高い確率で。「なぜか?」ということを、以前、オールドタイマーという雑誌に書かせてもらったので、適当に端折ってここにコピペさせてもらいます。自動車レストア雑誌向けに書いた文章なので、自動車のことにかなり強引に結び付けてあったりするけれど、でもぜひこの機会に、多くの人に読んでいただき原子炉の実情を知っていただきたい……と思い、貼り付けます。
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 そういえば山暮らしをするようになって、覚えた大切な技術があります。それはちょっとした小さなことの中に、幸せを見つける、という技術です。これは山暮らしをする上で、とても大切な技術のように思えます。いや、山暮らしに限らず、人が幸せに生きていく上での大切な技術とも言えるのかもしれません。そして自分のクルマを自分でレストアするような人は、それこそ、この種の達人とも言えるようにも思います。
 たとえば薪ストーブの前に座っていると、燃し木によって薪がはぜる音が違うことに気が付きます。木目の粗い広葉樹ははぜる回数が多いのですが、特にクリの木はよくはぜます。火がむき出しの囲炉裏ではクリははぜるので好まれませんが、密閉型の薪ストーブの場合は特に問題ありません。それよりも逆に、燃し木がはぜる音には本能に根ざしたような不思議な安心感のようなもの(火が燃えていればケモノに襲われないという大昔の記憶からくる安心感か?)があって、それによる演出効果の方が大きいように思われます。
 またクリは、コナラやクヌギと較べると火持ちは悪いのですが、燃やしたときの匂いが香ばしいのが特徴。特に根っこは、焼き栗を焼いているときのようないい匂いがします。
 そんなことを楽しみながら本を読んでいたりすると、ごくまれにですが、突然「パキーン」という甲高い音がすることがあるのです。

■鋳鉄のストーブと鋼のストーブ
 遠赤外線を使った輻射熱型の薪ストーブの多くは鋳鉄製です。鋳鉄は畜熱性に優れ、遠赤外線を放出する素材としては優れているので、薪ストーブの素材として合っているのですが、硬く脆(もろ)いので急激な温度変化に弱いという欠点があります。また鋳鉄は溶接も難しかったりします。そのため、部品同士の接合は溶接ではなく、間に耐熱のパッキンをはさんでボルト&ナットで固定されています。
 一方、ウチの薪ストーブは、鋳物ではなく鋼鉄=鋼板を使ったストーブです。鋳鉄に比べ、畜熱性では劣っているのですが、鋼板は靭性(じんせい=ねばさ)に優れているので、急激な温度変化にも比較的強いと言われています。鋳鉄の薪ストーブでは、急激に温度を上げることはご法度ですが、鋼板製の薪ストーブの場合は、アカマツやカラマツなど油分が多く燃焼温度が高い薪も使うことが出来たりします。
 また、鋼鉄は鋳鉄と違って溶接も容易です。とは言うものの、溶接を行うとその部分の鋼は水素を吸収してしまうので水素脆化(ぜいか)という現象を起こしてしまいます。溶接部が脆くなってしまうのはそのためで、鋼板が伸び縮みすることで溶接の一部が破断し「パキーン」という音をたてるわけです。

■圧力容器の溶接
 ところでこの音を聞き、ちょっと気になって調べてみたことがあります。それは原子炉の圧力容器のことです。アカマツやカラマツなどよりもはるかにカロリーの高い燃料を焚くわけですから、当然、鋳物ではなく、靭性に優れた鋼鉄が使われていました。これは予想通り。
 気になったのはその作り方だったのですが、原子炉圧力容器といえども、一枚の大きな鋼板をプレスしたワンピースの容器ではありませんでした。厚さ150ミリ以上というもの凄く厚い鋼板を溶接で継ぎ合わせて作られています。基本的な溶接術は我々が行う方法と同じ。鋼板の端部は斜めにカットして開先(かいさき)を作り、手溶接を繰り返し、もの凄い数のパーツをパッチワークのように継ぎ合わせて作られているのです。
 施工当時の写真を見ることが出来たのですが、巨大な圧力容器の周囲に足場が掛けられ、そこでアクロバットのようにして溶接が行われていました。溶接を行ったことがある人は分かると思うのですが、アーク溶接にしてもTIGやMIG溶接にしても、スラグの噛み込みの少ない良質な溶接を行うには、溶接部周囲に不活性ガスの雰囲気を作り、その中でアークを飛ばすということが必要になります。屋外、しかも足場の上という風が通る環境(不活性ガスが流れてしまうので)で酸化の少ない良質な溶接を行うのはかなり難しかったのではないかと想像されます。
 150ミリもの厚みの鋼板を使っていても、風の通る屋外で酸化スラグを生じさせずに溶接するのは不可能で、厚みが厚ければ厚いほどにスラグは混入しやすく、しかもその周囲の剛性が高ければ高いほど、応力は弱い部分に集中してしまうのです。

■シクスティーズ
 そしてもうひとつ驚いたのは、今回事故を起こした福島第一原発の工事が始まったのは1960年代だということです。1960年代といえばまだ現役でオート三輪が走りまわっていた頃です。技術的な側面で言えば、自動車メーカーが鉄のボディ鋼板にステンレスのクリップを使ってモールを固定していた頃でもあり、異種金属を隣り合わせてしまうことによる電食という考え方もまだしっかりとは確立されていなかった可能性があります。当時、腐食しない金属としてステンレスを多用したといわれている原発が、そのあたりのことをどう考え設計されていたのか?も大いに心配だったりするわけですが、でもまあ、まだそんな心配は序の口でした。

 さらに驚くことがあったのでした。原子炉の場合、溶接による水素脆化だけでなく、核分裂によって発生した中性子線の掃射を受けることで中性子脆化という現象が起こるのです。脆化が進むと金属はガラスのように脆くなってしまいには破断してしまうのですが、その脆化に至る温度のことを脆性遷移(ぜいせいせんい)温度といいます。
 定期検査ではテストピースを抜き出し、この脆性遷移温度が現在何度になっているかを調べるのだそうです。当初は氷点下だったこの脆性遷移温度が現在、多くの原発で氷点下ではなくなっています。事故があった福島第一原発の1号機の脆性遷移温度は、初期値が氷点下12度Cだったにもかかわらず、10年以上前の1999年の時点でなんとプラスの50度Cになっています(日本原子力発電の監視試験片取出し結果より:なぜか1999年以降の最近のデータは見つかりませんでした)。

■緊急冷却を緊急停止?
 最近になって東電は、地震の15分後に1号機で作動していた緊急冷却装置を手動で停止したと発表しました。ジャーナリストたちは、なぜ止めたのか?オペレーターのミスだったのではないか?と問いただしたようなのですが、東電は「炉の破損を避けるために緊急冷却装置を手動で停止した」としています。オペレーターの操作ミスなどよりも実は、こちらの方がよっぽども危険で大変なことだと思うのです。
 原子力保安院も「マニュアル通りの操作でオペレーターにミスはない」と説明しています。にもかかわらず、記者たちはオペレーター個人のミスに仕立てようとしているようなのですが「炉が破損するので冷却装置を止めた」ということの方がはるかに重大な問題なのです。
 原子炉冷却の手順書にはたしかに「緊急停止時に炉の温度が急激に下がった場合(具体的には1時間に55度以上下がった場合)、緊急冷却装置を手動で停止して、炉の破損を避けなければならない」と書かれているのです。これはどうみても金属の脆化のための対策です。
 今回1号機では、緊急冷却装置の作動によって一気に100度C以上温度が下がってしまったという情報があります。これはあまりにも急激な冷却で、ひょっとするともしかしたらそのときだれかが「パキーン」という溶接がはがれる音を聞いたのかもしれません。
 東電自身が「炉の損傷を防ぐため」と言っているわけで、脆化により炉を壊してしまわないように冷却装置を止めたというのは間違いないと思います。もし仮に冷却に失敗し1号機の圧力容器が割れてしまったら……、そうなると福島はもちろん、東京や横浜にも人が住めなくなくなる東京圏放棄が起きていた可能性はかなり高かったように思います。そこで仕方なく、現場の判断で緊急冷却装置を止めてメルトダウンさせた、というのが真相なのではないか?と思うのです。(追記:1号機に限っては全電源を喪失しても、蒸気圧で緊急冷却が出来る構造になっていました)。

■脆性遷移温度80度
 なぜこのことにこれほどまでにこだわるか?というと、実は現在稼動中の原発の中に、脆性遷移温度がとんでもなく高いものがいくつかあるのです。その中でも特に驚くのは玄海原発1号機です。2009年に炉内から取り出した試験片の脆性遷移温度はなんと98度Cだったといいます。停止した際のとりあえずの安全温度と言われる「冷温停止温度(野田が「収束」と称した温度)」が100度Cなわけですから、冷温停止とほぼ同時に、脆性遷移温度域に入るわけです。冷温停止状態であっても常温に下げることはできず、自然災害に襲われ緊急冷却が必要な場合であっても、たとえ電源を喪失しなくても、「急いで温度を下げることが出来ない」それが原発の現状なのです。
 九州電力は、今回取り出した試験片は中性子が特別よくあたる場所に置いてあったから高いのであって、実際の圧力容器の脆性遷移温度は「80度C前後だ」などと目糞鼻糞な主張をしています。仮に80度だったとしても、脆化を起こす温度が運転当初、氷点下16度Cだったものが、80度Cにもなってしまっているわけで、冷温停止後は温度を下げすぎても危険で、炉の健全性を保つためには、90度近辺を保たなければいけないことになります。仮に廃炉にした場合でもこの状態を30年近くも続けなければならないわけで、こんな状態の原発を安全だ!などと言う人は悪魔であって、ヒトとは思えません。
 玄海原発は日本列島にとって偏西風の風上にあたる地域にあります。しかも今度は建屋の水素爆発ではなく、原子炉本体の圧力容器が破損し崩壊してしまう危険性があるのです。そうなったらおそらく……日本はおしまいです。
 私たちは、果てしない欲望を望んでいるわけではありません。古いクルマをコツコツ直して使ったり、空き缶を加工して燃費のいい薪ストーブを作ったり、泥をこねて熱効率に優れたロケットストーブを作ったりしていたいだけなのです。薪がはぜる音を聞きながら、夜、静かに本を読んでいたい……そんなにふんだんに電気なんかなくたって、こころをちょっととりもどすことが出来れば、幸せはいくらでも得られる……と思うのです。