Twitpicでつぶやいたら、画像が見られない、という問い合わせをいただいたので、こちらにも貼り付けておきます。我が家の畑に植えたクヌギの木にやってきたカブトムシとスズメバチです。
↓そしてこちらは、羽根を広げてカブトムシを威嚇するオオムラサキ。畑のすぐ脇でこんな光景が展開しているのですから、仕事が手につきません。
ついでになぜ、ウチの畑にはクヌギの木が植えられているのか? を紹介したいと思います。
約10年程前、ある日突然、役場の人が訪ねてきました。
そして「家の周囲を雑木林を開墾し圃場整備が行われることが決まりました」と告げられたのでした。突然のことで、家族三人絶望的な気持ちに陥り、当時は引越しを考えたほどでした。このときのことがあるから、ほんのちょっとだけだけど、福島で被災された方たちの気持ちが(ほんの少し)分かるような気もします。
「風景計画学」が大学の専攻だったので開発に当たっていろいろ案をだしてみました。でもどれも採用してもらえず、その間にも、周囲の雑木林は切り拓かれ、大好きだった柿の木も、毎年たくさんの虫が集まってきていたクヌギの台木も(いずれも他人の土地の木ではあったのですが)は切り倒され、宅地造成されたような景観が家の周囲に広がってしまったのでした。
圃場整備は効率化を最優先した大規模農業のための土地開発計画でした。これらの農業では人件費をできるだけ削って効率よく単一作物を栽培するため、除草剤や殺虫剤、殺菌剤などが多用されます。
そんなわけで、家のすぐ脇にそれらの薬品を散布されたくなかったので、自衛ということもあって隣接するひと区画をウチで借りることにしました。役場を訪ねると「ひと区画、5反だけどいいですか?」と告げられました。そして突然、1500坪もの畑を耕すことになったのです。おかげで麦や豆など、穀類の自給ができるようになったのわけだけど……。
↑ウチで借り始めた頃の畑。このころは、奥の二反は小麦とライ麦とソバ、手前はS字型に園路を配したハーブガーデンでした。それと同時に、里山の多様な生物相を取り戻そうと、雑木の苗木を植えたのでした。
↑そしてこれが今の姿。奥にかすかに見える温室がないと同じところには見えないかもしれませんね。
手前の大きな木がエノキ。オオムラサキ、テングチョウ、ヒオドシチョウ、タマムシ、ナナフシなどの食樹です。エノキは実がなるので、小鳥たちも多く集まってきます。また、エノキの脇にはブッドレアが混植されていて、成虫が樹液をエサとするタテハチョウ科だけでなく、カラスアゲハやヒョウモン類、それにアオバセセリなどもやってくるようになりました。
奥はクヌギの並木。かつて田んぼや畑に刈り敷き(カッチキ)が行われていた頃は、田んぼや畑のすぐ脇にクヌギやコナラが植えられていたといいます。ヒトによるそうした農的な営みが長い時間行われてきたからこそ、八ヶ岳南麓地域にオオクワガタが育ったわけだし(注1)、カブトムシも(ヒトが作った堆肥を食べるようになって)これほどまでに巨大化したものと私は推測しています。
里山と言われる地域に棲む生物は、多かれ少なかれヒトが行う農的な作業に寄り添う形で生きてきました……だから、縄文の後期から江戸時代まで徐々に農的な作業は変化しましたが、それに追随して里山の生きものたちもその生態を進化(淘汰による変化)させてきました。だから江戸時代に行われてきたような農的な作業をヒトが行わなくなってしまうと、これらの生物は生きていけなくなってしまう、と私は思っています。虫や微生物、菌類のためには土地の一部を耕すことも必要だし、排泄物は下水に流さず堆肥などに混ぜて畑に混ぜ循環させてやらないと、世界から大量の食料を輸入している日本の近海は富栄養化するのが当然だし、このままでは少なくともカブトムシは今のような姿で生きていけなくなってしまうと私は考えています。
一方、一度は壊滅的な環境変化に見舞われたわけですが、お借りした圃場にクヌギを植えそれらが育ってきたら、オオムラサキやカブトムシ、スズメバチ、クワガタ、ケシキスイなどが現れ、ケルクス類の葉を食べる里山ゼフィルスも発生してくれるようになりました。里山のゼフィルスは、面白いことにクヌギやコナラなどの薪炭用樹のひこばえに決まって卵を産みます。薪炭林としてヒトが定期的に伐採を行うことで初めて生きていける生物でもあるのです。
↑今年はたくさん発生してくれたウラナミアカシジミ。クヌギのひこばえに卵を産みます。こんな美しいチョウが畑の傍らで羽根を休めているのです。なかなか仕事は進みません。
↑エノキをたくさん植えたおかげで、オオムラサキの数は多く、いまでは家の周囲だけでもオスがテリトリー争いをする陽だまりスペース(ツバメが入ってきても威嚇して追い出す)が5箇所以上あります。かつては絶望し、一度はあきらめかけたことなのですが、いまではあの頃、夢にまで見た景観が徐々にではありますが蘇えりつつあります。
注1)北杜市須玉町在住の山口進さん(←尊敬する生物写真家です)が書かれた「米が育てたオオクワガタ」という本があります。素晴らしい本です。ヒトが行う農的な作業と生物の多様性に関して興味をもっている人にぜひ読んでいただきたい本です。
追伸:山口進さんからメールをいただきました。
実はこの本(「米が育てたオオクワガタ」)をきっかけとした取材が行われ、8月10日(夜7時半から、NHK総合テレビ)で放送されることになったそうです。タイトルは「ちょっと変だよ日本の自然」最初のコーナーで、小型化するカブトムシをテーマに十数分放映されるそうです。
また、山口さんもウラナミアカシジミは雑木林の放置が進んだことで(ヒトが薪として利用しなくなったことで)消えてしまった蝶でないかと推測されているようです。理由はこのチョウは(伐採したクヌギの)新枝を好んで産卵するという性質を(遺伝的に)確立してしまっている(ヒトの農的な暮らし方にチョウの生態がリンクしてしまっている)から。毎年探していますが、この7〜8年、我が家周辺(北杜市須玉町)では見かけていません、とのことでした。
ところで、この記事のタイトルに「カブトムシよりも大きなスズメバチの秘密」とありますが、どこに秘密があるのか?お分かりいただけたでしょうか?
実は一番上の写真のオオスズメバチ、確かに大きいのだけれど、一緒に写っているカブトムシの方も比較的小型の固体なのです。
↑いずれも自然発生したオス。これはかなり極端な例ですが、カブトムシは環境の変化(栄養量の変化)にかなり対応できる種、とも言えると思います。
なぜカブトムシが小さくなってしまっているのか? そのあたりにも思いを寄せてもらえるとうれしいと思ってつけたタイトルなのでした。答えの一部はおそらく、10日のNHKの放送でも紹介されるのではないかと思います。ヒトの暮らしとの結びつきの強くアゴの形に種類のあるノコギリクワガタに関しても、カブトムシと似たようなことが言えるのではないか? と推測しています。
ひと言で「虫」と捉えてしまうことが多いのですが、虫にもたくさんの種類がいます。これまでもヒトによる環境の変化は非常に大きかったので、ヒトの極近くで生きてきた虫たちは、ある程度の環境の変化に追従できるように思うのです……しかし、結びつきがあるのだけれど、それでも少し距離があった生きもの(トキやホタルやゼフィルスなどなど)は、現代人が作り出してしまっている現代の環境の激変についていけてないのではないだろうか……? こうした里山に近い環境に住んでいると、最近しみじみ感じることでもあります。
↑虫草農園の一角に積んだ堆肥からたくさんのカブトムシが発生していた頃の昆虫酒場(大きな固体が多い)。でも最近はどうもアナグマ、あるいはイノシシ、もしかしたらネズミを食べに来たキツネ? ひょっとするとツキノワ?にかぎつけられたらしく、丸々と太った幼虫の時点で捕食されてしまい堆肥からはほとんど発生しなくなってしまいました。ヒトとのかかわりの深い里山の自然とはいえ、複雑で混沌としていて奥が深いです……。