ナチュラル・アスピレーション

 かつて、ターボやスーパーチャージャーなどの過給器が全盛だった頃の話。こうした過給器を使って燃料を無理やり押し込むエンジンに対して、過給器を使わない自然吸気のエンジンのことを、NA=ノーマル・アスピレーションと呼んでいました。過給器を使えばエンジンのパワーアップは比較的簡単にできます。でもこれでは多くの場合、燃費も悪くなります。こうした方法とは別に、ピストンの余分な贅肉を削り落としたり、各気筒で重量のバランスを揃えたり、あるいは排気管の形状を変更するなどしても、エンジンの性能アップは可能だったりします。ターボなどを使わないそうしたチューニングのことをNAチューン(ノーマルアスピレーションチューン)などと呼んでいたいのですが、でも「ノーマル」という言葉がどうも好きになれず、雑誌などで紹介する際はできるだけ、NA=ナチュラルアスピレーションと呼んでいました。でも、その頃はあんまり普及しなかったなぁ。
 医療関係の方はよくご存知のことと思いますが、アスピレーションというのは「吸引」や「吸気」のこと。だからナチュラルアスピレーションは直訳すると「自然吸気」。でもアスピレーションには「熱望」だとか「大望」といったようなポジティブな意味もあります。
 そしていま天ぷら廃油(でクルマを走らせている)仲間の間で、自然吸気の廃油ストーブが注目されています。普通、廃油ストーブは、ブロアで風を送るため、電気が必要なのですが、このストーブは燃焼によって上昇気流を起こし、ベルヌーイの定理により吸気を引き込み、未燃焼ガスを二次燃焼させるという仕組みです。シャロムヒュッテの臼井さんもこんなページを作ってくれました。
 その臼井さんとおととい、ナチュラルアスピレーションの廃油ストーブ製作者である、なかしまさんをお訪ねし、またまた廃油ストーブをいただいてきてしまいました。そしてその廃油ストーブは、兵庫の篠山で地域の人たちのために直売所を作った熊谷さんにもらっていただくことになったのですが、熊谷さんはいまちょっと事情があって地元を離れることが出来ません。そしたら、全国に住む天ぷら廃油燃料メーリングリストの仲間が、西に向かうそのついでのときに各地を中継しながら、しかも化石燃料を使わず天ぷら廃油燃料のクルマで我が家から兵庫まで廃油ストーブを運んでくれることになりました。
 前置きが長くなりましたが、そんなわけでウチにこのストーブがある時間は限られていて、ウチから次の中継地点(長野の豊丘あるいはもしかしたら岐阜の加子母)まで運んでくれる河口湖の平田さんがいらっしゃる前に、試運転をしてみることにしました。
 本来は煙突をつけ建物の中で炊くのですが、今回は試運転なので外で炊くことにしました。軽トラから廃油ストーブをおろし、簡単に掃除して……と思ったら、燃焼室にはオイルまみれの落ち葉がたくさん堆積していました。とりあえず、それを適当に掻き出し、自動車の燃料には使いたくない異様な臭いのする腐った廃食油を吸気口から300㏄くらい注ぎました。本来はパイプが接続された先の四角いパイプ部分に燃料を入れるのですが、量が少ないので直接吸気口から入れ、その後、灯油を染み込ませたウエスを吸気口にセットし、それに火をつけてから中に押し込みます。
 最初の1〜2分、不完全燃焼により黒い煙を発していましたが(水もかなり中に入っていたと思う)、その後、写真のように勢い良く燃焼を始めました。

 この日は比較的風が強くそのため、吸気口から供給される空気の量は多かったと思います。そのために勢い良く燃えた、と言うこともあるかと思いますが、煙突を接続せず、大気に排気が解放された時点でも火炎放射器のような勢いでよく燃えているので(この部分にもまだ未燃焼ガスがかなり残っているということなので)、この燃焼室容積(面積と言ったほうが正解か?)に対してはもっと吸入空気が必要なのかもしれません。ベルヌーイの定理によると「流体の周囲に生じる負圧は、流速に比例して大きくなる」わけだから、電気ブロアを使わずナチュラルアスピレーションのまま酸素をもっと供給するには、パイプ内の流速をもっとあげ、穴から吸い込む二次空気の量を増やす必要があります。
 ひとつは、なかしまさんが言っていたように、煙突の上部にチャンバー室のような膨張管を付け、容積変化を使って流速を増す方法が考えられます。ただしこの場合、酸素を引き込む部分の管の太さは変わらないので、通過する未燃焼ガスの量も増えてしまう可能性があります。
 もうひとつはキャブレターのアウターベンチュリーのように、二次空気の取り入れ部分のパイプの径を絞りその部分の流速をあがる方法も考えられます。この方法だと流量はあまり変わらず、流速だけをあげることが可能で、燃費が良くなり完全燃焼に近づくる可能性があります。また、ブレンディさんが書かれていたように、煙突の最後、大気への開放部分もキャブレターのカールファンネルのようにきれいな形で膨張させてあげると、煙突内の排気を引っ張る効果があがるように思います。あるいは煙突の内壁にゴルフボールのディンプル加工のような模様を施すとか……。「空気は案外ねばっこい」と考えると流体としての空気の流れる様子を想像しやすいかもしれません。
 あるいは、排気をいくつかに分散するという方法も考えられます。パイプをいくつかに分散した方が容積変化はつくりやすく、二次空気の供給もよりきめ細やかに少ない容積に対して行なうことができるように思います。
 そしてもうひとつ、今回、火炎放射器のように猛烈な勢いで燃えた理由のひとつに、内部に残っていた落ち葉が考えられます。

 ↑途中で、燃焼室内をのぞいてみたのですが、灯油を染み込ませたウエスはまだ形を残していました。つまりウエスは、ろうそくの「灯芯」のような状態になっていた可能性があります。内部には他にも灯芯のように形を残している固形物がたくさん見受けられました。灯芯がたくさんあったために、廃油の気化が促進され、火炎放射器のように燃え、また未燃焼ガスもたくさん出た、という可能性もあります。
 逆に灯芯の大きさや燃焼のための廃油の表面積の大きさを調整することができれば、燃焼の調子をコントロールすることが可能かもしれません。燃料をもっと小出しにして、ベンチュリー部を作り、そこで空気をたくさん混ぜて、そのさきにロケットストーブを接続して流量を稼ぐ……。
 電動のブロアのようなものに頼ってしまうのは簡単ですが、限られた条件の中でいかに効率よく燃焼させるか? というほうが楽しいし面白いと感じます。ナチュラルアスピレーションにこだわる、ということは、どこかで、足るを知る、という考え方と通じるものがあるような気もします。