土手の草刈りと草残し

 私の棲んでいるところは、地元のひとたちから「山つき」(たぶん「山つづき」の意)と呼ばれています。西側はそのまま南アルプスで、ウチから西にまっすぐ歩いていったとしても、おそらく100㎞以上、人家に突き当たることはありません。
そんなわけで、我が家の畑も山つき。傾斜地で、土手(のり面)がたくさんあります。こうした土手をどう管理するか?悩みどころでもありますが、こうしたことを考えるのは意外と楽しい作業でもあります。
 傾斜のない平らなところは、我が家では主にロータリーモアタイプの芝刈機(歩行型エンジン芝刈機)を使って草刈りをしていますhttp://www.honda.co.jp/power-style/publicity60/index.html。この芝刈機を使った草刈りはオススメなので、また別の機会に詳しく紹介させていただこうと思います。刈払機と違って刈り草が粉砕されるので発酵しやすく、自然素材のマルチとしても使えるし、使い方次第では草丈1mくらいの草も刈ることができるし、安全で作業性にも優れています。
 で、今回は斜面、土手ののり面の管理の方法。2輪駆動の自走式芝刈機でも、ある程度の高さまでは刈れるのですが、斜度がきつくなると横滑りし、駆動をかけてドリフトさせながら斜面を芝刈機で刈るという裏ワザ(ただし、4ストエンジンの場合はオイルの偏りに要注意・長くオイルが偏った状態で負荷を掛け続けるとエンジンが焼き付きます)もあるのですが、普通はエンジン刈払機を使います。

↑手前がエンジン刈払機で奥が自走式芝刈機。

↑これはエンジン刈払機の刃の部分のアップ。欠けを修正しながら酷使されています。刃先に焼結合金をロー付けしたチップソーは、刃を研ぐことができない(難しい)のでどうも好きになれません。鉄の刃のディスクを研ぎながら使っています。これについても別の機会に研ぎ方などを詳しく紹介させていただこうと思いますが、毎回ほんの3分ほど研いでやるだけで鉄の刃は、新品のチップソーよりもはるかによく切れ、普通の草ならアイドリング+αくらいの低いエンジン回転数で十分。エンジンをぶん回す必要がありません。これだと燃費もいいし、安全だし、刈払機も壊れません(20年以上前に14800円で買った刈払機をいまだに使っています)。
 しかも刃の角度を変えることで、鉄の刃だと若い樹木も切れたりします。しかもそうした荒い使い方をしても、刃は傷みますがチップソーと違って超硬チップが弾丸のように飛んでいくということもありません……おっと、話を土手の草刈りに戻します。
 で、まず、刈払機を使う前に、大ガマで「残したい野草」の株元を刈ります。

↑これが大ガマ。柄は1m50㎝くらいあります。この大ガマも田舎暮らしをするひとにはぜひオススメの道具で、クズやカナムグラなどのつる草の除草には絶大な威力を発揮してくれます。
 他にも、柄の長いノコギリ鎌なんかもあると、残したい植物の株元や株の中の草を刈るのに便利だったりします。詳しくはコチラを御覧ください。
「圃場の土手は適度に草刈りをし管理しつつも、人の好みで野草を適当に残す」これが大切だと思うのです。土手や畑などをヒトがまったく管理せずに自然にまかせ放置しておくと、クズやブタクサ、アレチウリなどの帰化植物に覆われ、単一植物の大群落になってしまいます。これでは生物は多様性を失ってしまい生態系のバランスは崩れてしまいます。このあたりの畑の土手には本来、ナンテンハギやワレモコウ、カンゾウ類やツリガネニンジンコマツナギイラクサ、ホタルブクロなどなど(数え出したらきりがないのでやめますが)数多くの野草がかつてはヒトの暮らしと共に生息していました。除草剤はもちろんのこと、昔はエンジン刈払機などもなかったので、ヒトは土手や林縁をカマで草刈りし、これらの植物はその姿の美しさや薬用成分があることによって、ヒトはその植物をわざと刈らずに残したり、目こぼししてきた可能性があります。またヒトが行なってきた昔ながらの農的な営みに植物や昆虫の生態そのものが順応していたりもします。
 ヒトは世代交代のスピードがたいへん遅い生物(子供を生むまで早くても10年以上必要)です。そのため遺伝子レベルで環境の変化に適応する能力には劣っています。ところがヒトと違い、一年草は一年で世代交代をします。またモンシロチョウなどは一年に数回世代交代を繰り返すわけですから、その分、遺伝子レベルでの環境への順応力(遺伝子的に環境適性のない個体が淘汰されることによる遺伝子レベルでの種の性質の変化=ヒトはこれを「進化」と呼ぶけれど……淘汰による種の変化と言ったほうがより正確だと思う)には優れている、とも言えます。さらに一年草やモンシロチョウなどは、ひとつの成体がたくさんの子供を産むわけですから、遺伝子の多様性という点でも、突然変異の可能性の点でもヒトよりもはるかに有利です。というわけで、一般に個体の大きさの小さい生物(特に菌類)ほど、世代交代のスピードは早いので、遺伝子レベルでの耐性を得やすく、殺虫剤や抗生物質などを使うと、最終的には世代交代のスピードが遅い(遺伝子レベルでの変化のスピードが遅い)生きもの(つまりヒトやゾウなど)に影響が出やすい、とも言えると思います。
スミマセン、また話が少し逸れてしまいました。
 今回は、任意の野草を土手に残した状態で、土手草を刈る場合のちょっとしたコツを紹介したいと思ったのでした。一番いいのは昔のようにカマで全体を刈る方法。これなら任意の草を残すことが比較的容易です。でも、田舎で農的な暮らしをしていると残念ながら、なかなかそれほどの時間的な余裕が取れないことが多いと思います。
そこでまず、歩行式芝刈機を使ってフラットな面の草を刈ります。次に、野草の株元を大ガマで刈ります。その後、エンジン刈払機で斜面を刈るわけですが、斜面を右に下のほうから刈払機を扇型にストロークさせながら刈っていきます。いっぺんに大きくストロークさせると野草を残しにくいので、2m前後の土手は二回に分けたほうがていねいな仕事ができます。
 また、残しておきたい植物は土手のカタ(肩)の部分に移植しておくと管理がとても楽です。土手の上部、下から刈払機で刈った場合にギリギリ届く位置がベスト。刈払機で下から残したい植物の株元近くまで刈ったら、最後に上からも刈り残しを刈払機または大ガマで刈ります。

↑土手のカタの部分にはコスモスに隠れるようにしてカボチャが植えられていたりもします。草刈りした後の刈り草の上にカボチャを這わせると土手を有効利用できます。イノシシに見つからなければ収穫できることもあります。カボチャのように植物は種類によっては土手の下側に倒れながら這うように成長してくれます。こうなると草を刈る部分も少なくなり、宿根草の場合にはうまく管理すると群落として広がってくれる場合もあります。

↑土手の上と下、平らな部分の野草を残すことをあきらめると、歩行式エンジン芝刈機が使えます。斜面は刈払機を使い、刈った草をマルチのように敷いてあげると、残したい野草以外の草の発生をある程度抑えることが可能。
また、シカよけのネットには、銀ぶろうやマイクロトマトがからげてあります。

↑土手のカタの部分は繊細な手入れがしやすいので、コスモスが点々と残っています。秋になるとこのコスモスが土手に倒れるようにして咲き乱れ、ヒメアカタテハがたくさんやってくるようになりました。というわけで、うまくするとこうして秋に野草たちが咲き乱れる土手をつくることもできます。
 先にあげた野草の多くは、実は虫たちの食草でもあります。ナンテンハギは絶滅が危惧されるアサマシジミの食草だし(このチョウはかつて、小淵沢周辺の集落の周囲にたくさん棲んでいたのでした)、ワレモコウにはクシケアリというアリが共棲しています。また、ゴマシジミというチョウは3令幼虫までワレモコウの花を食べ、その後、このクシケアリによって巣に運ばれ終令幼虫まで育てられるというとても変わった生態の昆虫だったりします。このチョウも峡北地域の(山奥ではなく、人が近くに暮らす)里山に多産地がたくさんあったのですが、いまではほとんど見かけなくなってしまいました。
 ゴマシジミやアサマシジミはまだウチの畑では見られませんが、ワレモコウもナンテンハギも群落はだんだん大きくなってきています。現代の日本で環境に負荷をかけず農で生計をたてていくのはたいへん難しいのですが、その一方で自給農的な暮らしをするヒトが増えることで、こうしたチョウが増えてきたり、ヒトのまわりで暮らす生きものの種類がかつてのように増えてくれるとうれしいなぁ、と密かに願っています。
 行政が行なっているような「種」を指定した自然保護の取り組みも大切かもしれませんが、ホタルだとか、カエルだとか、クワガタだとか、トキだとか……かつてヒトと共に暮らしていたこうした生きものの種類や数が、ヒトが農的な暮らしを取り戻すことで、その周囲に再び増えてきたとしたら、それこそヒトを含めた「種」や「個」の多様性の保全であり、本当に素晴らしいこと、のように私には思えるのです(ただし、トキの棲める環境を取り戻す努力はして欲しいのですが、トキを人工繁殖させることに賛成しているというわけではありません)。

 そしてこれらの土手草の花が咲き出すと、こんな感じ、になります。