窓の外、ちょうど目につくところにカエデの木があるのですが、2月の新月を過ぎる頃、カエデの幹を叩きにアオゲラがやってきます。そしてその穴から樹液が流れ出し、その樹液を吸いにメジロがやってきます。
人もそのオコボレを頂戴しちょこっと舐めさせてもらうことがあるのですが、ほんのりと甘くて、ふーむ、これを集めて煮詰めたのがメープルシロップなんだなぁ、などとイメージを膨らませていました。
それにしても、カエデもアオゲラもメジロも、月と太陽と地球が一直線上に重なるときの引力の違いの差を感じることができる、ということなのだろうか? 凄いなぁ。
2月の新月が来るのを待って、カエデの樹液を集めみることにしました(もっと早くから始めていれば、新月を過ぎた次の日から、本当に樹液の量が増えるのか?検証できたのに……残念!)。
そしていま、樹液シロップづくりにドップリとハマっています。
⇧なぜかありがたいことに、虫草農園にはカエデの林があったりします。これみんなカエデ。イロハやデショウジョウ(ノムラかも?)、ハウチワなどの種類があるのですが、これまでの感じからすると、樹液の量は、樹種よりも木の幹の太さや土壌の水分の多さに依存しているように思われます。
⇧こちらは、キツツキがあけた穴から流れ出るメイプルウォーター。指にとって舐めてみるとほんのりと甘さが感じられます。概して、キツツキが穴をあけたカエデやクルミは樹液の出がいいように思われます。どの木が樹液を出したがっているか、分かるのだろうか?
ところで、どうやって樹液を採取するか? タケノコニップルを流用したり、金属製のパイプを差し込んでみたり、いくつか試してみたのですが、「幹にドリルで穴をあけ、そこに直接ホースを差し込む」というシンプルな方法が一番いいようでした。
⇧ゴミや雨が入らないように、一升瓶の頭にいちおう傘を被せてあります。
■樹液採取の方法■
ちょっと可哀想で、木にはたいへん申し訳ないことなのですが、まずは生きた木にドリルで穴をあけます。この時期、カエデの他にも、オニグルミ、スズカケノキ(プラタナス)、あるいは白樺などのカンバ類(キシリトール)、などから樹液が採取できます(白樺はカエデやクルミよりも少し時期としては遅めとも言われていますが)。
⇧ホースを密着させるため穴は、使用するホースの外径よりも若干小さめのキリであけるのがいいようでした(外径10ミリのホースに9ミリの穴をあけ突っ込んでいます)。また、朝はまだこのあたり氷点下まで下がるので、早めに日が当たって凍った樹液を溶かしてくれるように東に面した幹に穴をあけることにしました(糖度は少ないのでシャーベット状に凍ります)。
それと、上の写真のように、水平ではなく、少し斜め上に向けてあけるのがいいようです。
樹液は根から道管を通って吸い上げられ、道管は辺材(=白太)部分に多いことが知られています。そこで同じ木でいくつか穴のあけ方を変えてみて、どこから一番たくさん出てくるか試してみました。
⇧たくさんチューブをつながれ、ちょっと可哀想だけど、この木は今年伐って、ヒラタケやエノキタケを植えます。日当たりがいい場合、クルミもひこばえが出て切り株は再生されることがあります。
さて、どんな穴のあけ方が良かったかというと、予想に反して、辺材だけに貫通するようにオフセットして穴をあけるよりも、芯材(幹の中心)に向けて開ける方が樹液の出はいいようでした。中心に向けて、そしてなおかつ少し斜め上方に向け、クルミのように芯材がある木は芯材に届く手前くらいの深さであけるのがいいように思われました。直径30センチくらいの太めの木で3センチくらいであけています。
接続するホースは、あまり細いと表面張力が働いて、樹液が流れにくくなってしまうので、木には可愛そうなのですが、ちょっと太めで外径10ミリのホースを使用することにしました。穴とホースのスキマから樹液がこぼれてしまうとモッタイナイので、あける穴はホースの外径よりも少し細い9ミリのドリル刃を使ってあけ、そこにホースをピッチリねじ込みます。
⇧この写真では、樹皮の裂け目に穴をあけホースを挿していますが、オニグルミのように樹皮の厚い木では、なるべく樹液を漏らさないためには、裂け目よりもコルク質の樹皮を貫通するように穴をあけた方がいいようでした。
⇧ビン内が正圧になってしまうと、樹液は流れ出にくくなってしまうので、ペットボトルの場合はホースを通す穴の他に、キャップにエア抜きの穴をあけています。このくらいのサイズの穴であれば、表面張力が働くので雨も入りにくいと思われます(雨が入ってもまあ、このあたりの雨だったら、その後、煮込むわけでそれほど問題なさそうですが)。
⇧一升瓶を使う場合はこんな感じで、ゴミ&雨よけのキャップを作りました。ホースを通すキャップの穴もホース外径よりも少し細くすると抜けにくく雨も入りにくくなります(ただし今の時期、一升瓶は氷結に要注意です)。
■細い木からの採取方法■
樹液を採取するには、太い木がいいのですが、太い木がない場合でも樹液の採取は可能です。メイプルシロップの本場カナダで、単位面積あたりの収量をあげるやり方として注目されている方法で、細枝を切断し、そこにホースをつなぎ、負圧をかけて収穫する方法です。太い木に穴をあけた場合と比べると、一箇所あたりの収量は少ないのですが、細い木からも収穫できるので圃場面積あたりでの収量では優れているとのこと。
⇧枝のサイズにあった太めのホースを使用し、ホースの内径よりも少し太めの部分で枝を切断し、そこにホースを接続します。枝の先端を少し面取りしてあげるとホースを挿入しやすくなります。カナダでは樹液が漏れないようにその上からホースバンドで縛っているようでしたが、うまくサイズを選べば、ホースバンドなしでも樹液は漏れませんでした。
⇧負圧を維持するため、ペットボトルのキャップとホース接続部にはシリコンのコーキング剤でシールをしました。
⇧負圧をかけるためペットボトルをつぶした状態でキャップを締めます。負圧を得るためペットボトルが少し潰れているのが分かるでしょうか?
■樹液の採取■
樹液の採取には蓋付きのこんなポットがあると便利です。
⇧大量の収穫があった場合でも、片手でポットを持てるように取っ手にヒモを結び、持ち手を付けました(ヒモは切れたスターターロープ←こんなものまで捨てずに取ってある、で、黒いグリップは廃車から外した燃料ホースです)。
⇧フタはお皿にもなるので、外したホースに落ち葉などを付着させずに置くことができます。このクルミの大木は、ヒトだけでなく、キツツキやメジロ、それにリスやノネズミにとっても大切な木。みんなでシェアして大切にいただきます。フタのすぐ脇にある穴の空いたクルミの殻はこのあたりにノネズミが棲んでいる証拠。
⇧ヒトが夜、ベッドでパンケーキを食べる夢を見ている間も、カエデやクルミの木はポタン、ポタンと樹液を垂らし続けてくれます。
■シロップづくり■
集めた樹液は、薪ストーブの上で煮詰めます。
⇧多い日は3リットル以上の樹液が収穫できるので、ストーブの上には鍋が林立。いつになく、薪もリッチに焚いています。
メイプルウォーターやウォルナッツウォーターは40分の1くらいに煮詰めると、糖度が66度くらいになり、メイプルシロップやウォルナッツシロップになると言われています。4リットルで約100cc。スズカケノキやカンバ類はさらに樹液の糖度が低いので、さらに煮詰める必要があるそうです。
⇧こちらはもうすぐ、シロップになりそうなメイプルウォーター。煮詰めると褐色に色が付き、部屋に幸せな香りが漂います。
⇧そしてこちらは、10分の1くらいに煮詰まったウォルナッツウォーター。オニグルミの樹液は煮詰めると、表面に透明の膜のようなものができます。膜ができると蒸発しにくくなるのでときどきスプーンでかき混ぜ、膜を溶かし込んでいます(もちろんそのついでに味見もしています)。
そして完成したメイプルシロップ。
まさに森の恵み、木の汗と涙の結晶。
気品ある香りのメイプルシロップに対して、ウォルナッツシロップは、ほんのりとナッツの香りがしてこちらもまた絶妙な甘味料、いや甘美料。
毎日、少しずつ量が増えていくのも楽しみのひとつ(食べなければ、ですが)。
早春のこの時期ならではの気品に満ちた甘みと、部屋中を幸せな香りと暖かさで満たしてくれる、早春らしく心をウキウキさせてくれる楽しみなのでした。
2019年のメイプルシロップ採取に関してはこちらから。
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